黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は菊池桃子さんの誕生日なので

ビクター SKX-1081

CHA-CHA-CHA ヒット・ヒット・マーチ

発売: 1987年4月

ジャケット

A1 シーズン・イン・ザ・サン (TUBE)Ⓐ

A2 CHA-CHA-CHA (石井明美)Ⓐ

A3 六本木純情派 (荻野目洋子)Ⓐ

A4 木枯しに抱かれて (小泉今日子)Ⓐ

A5 熱き心に (小林旭)Ⓑ

A6 マーチ・アマデウス (モーツァルト)Ⓒ

B1 こんにちはトントン (大和田和樹・りつこ)Ⓓ

B2 魔訶不思議アドベンチャー! (高橋洋樹)

ロマンティックあげるよ (橋本潮)Ⓓ

B3 SAY YES! (菊池桃子)

B4 仮面舞踏会 (少年隊)Ⓐ

B5 悲しみよこんにちは (斉藤由貴)Ⓑ

B6 マーチ・四季 (ヴィヴァルディ)Ⓒ

 

演奏: マーチング・フェローズ・オーケストラ

編曲: 神山純一Ⓐ、若月秋人Ⓑ、渡辺敬之Ⓒ、松山祐士

定価: 2,000円

 

何が「みどりの日」や!5月4日は「桃子の日」!初めて買ったコンパクトディスクは、2枚組ベスト『卒業記念』なのだ!1曲だけの新曲と豪華写真集のために、LPに手を出す気になれず、気になるニューメディアに先行投資。プレイヤーを実際買ったのは、その約9ヶ月後でした(汗)。そんな話をせずにいられなくなる今日取り上げるのは、黄昏盤全427枚中2番目に新しい盤。2月6日取り上げた『ビッグ・ヒット・マーチ “89”』同様、最新ヒット曲を中心に行進曲仕立てとした1枚だけど、主旨的にはその東芝盤と趣が相当違う。聴き進む内に、ガチ行進曲スタイルとはかなり異なるなというイメージが形成されていくけれど、それなりに楽しい展開もあって油断できない。

まず、大々的に「デジタル・サウンド」を謳っているのが特色。そろそろ主流に近づかんとしていたデジタル録音の特性を生かし、80年代特有の感触をサウンドそのものが強烈に押し出してるのだ。いやが上にも夏の到来を感じさせるオープニングのシーズン・イン・ザ・サン(当然「そよ風のバラード」ではありません!)も、リズム自体は軽妙なフュージョン・タッチが基調になっており、バスドラとスネアだけが律儀にワンツー打ち。そこに勇ましいブラスサウンドが乗っかっているだけで、旧然とした運動会の雰囲気など全く感じさせない。ちなみにアレンジは、70年代後期クラウンの歌無盤で活躍しまくった神山純(一)氏である。流石にここでは手堅い仕事ぶりだ。続く3曲も同じような感じで、特に「六本木純情派」は自社曲なだけあり、忠実すぎで保守性皆無。ちょっと風向きが変わるのは熱き心にからだ。オリジナルを解体し尽くし、行進曲のテンポに合わせるため縦横無尽に乗せ方をコントロールし再構築。ナイアガラーからすると冒瀆とさえ思えるかもしれないけど、この大胆さは買える。「うなずきマーチ」よりは行進に向いてるかも(爆)。この企画ならではの実験性が炸裂するのは「マーチ・アマデウスだ。「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に始まり、「交響曲40番」(「哀しみのモーツァルト」の原曲)、「トルコ行進曲」と、軽妙に数珠化アレンジ。他の曲と違い、恐らくシンクラヴィアか何かで完全に打ち込みで作られており、全体の流れからするといいアクセントになっている。打ち込みが楽しくてしょうがなかったのではないか。ちなみに、ザッパの『ジャズ・フロム・ヘル』の翌年発売だ。

B面は松山祐士アレンジで完全に児童対応の2曲からスタートするが、まさか20数年後にドラゴンボールネタがネタとして通用する世の中になるなんて、当時のキッズは想像しなかったろうな。超高速で駆け足対応になっている「魔訶不思議アドベンチャーは、飛び道具としてフロアを沸かせるに持って来いの出来だ。桃子の方の「SAY YES!」は、もっとガチなマーチ・アレンジにも耐え得る楽曲だと思うが、ここでは普通に真っ当なJ-popインストの感触。「仮面ラ…」もとい、「仮面舞踏会」はアゲアゲ感が損なわれ、かえって場がしらけそう(やっぱ、この時期だって筒美京平だしね)。悲しみよこんにちはは多少気が抜けているものの、妙なエフェクトが入り、インストとしてはユニークなアレンジ。後半の方では勇ましく歩き出したい感じになる。ラストの「マーチ・四季」は、趣的には「アマデウス」と一緒だが、こちらは実用感に乏しい。

よく思いついたなというアイディアを1枚に凝縮して、運動会対応に仕立てた作品ではあるけれど、その現場でレコード・プレイヤーが活躍する時代は、じきに終焉を迎えることになる。CD時代になっても幾分かは、あったかもしれないけど。「スメルズ・ライク行進曲」なんてあり得ないよね~(爆)。