黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

来生たかおさんの誕生日は11月16日

東芝 TP-40175~76

ニューミュージック最新ベスト・ヒット30

発売: 1983年

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ジャケット

A1 初恋 (村下孝蔵)☆

A2 少年達よ (堀内孝雄)☆☆

A3 Sing A Song (松山千春)☆☆

A4 夢の世代 (谷村新司)☆☆

A5 う、ふ、ふ、ふ、 (epo)

A6 ガラスの森 (丸山圭子)

A7 無口な夜 (来生たかお)

A8 愛されてばかりいると (井上陽水)

B1 恋人時代 (長渕剛)

B2 だいじょうぶマイ・フレンド (加藤和彦)

B3 心こめて愛をこめて (あみん)

B4 エスケイプ (稲垣潤一)

B5 ボディ・スペシャルII (サザンオールスターズ)

B6 ネグレスコ・ホテル (BORO)

B7 MY MARINE MARILYN (山本達彦)

C1 琥珀色の想い出 (あみん)

C2 ドラマティック・レイン (稲垣潤一)

C3 疑惑 (来生たかお)

C4 Just You (もんた&ブラザーズ)

C5 Long Distance Call (寺尾聰)

C6 Ya Ya あの時代を忘れない (サザンオールスターズ)

C7 横恋慕 (中島みゆき)

C8 サーカス (谷山浩子)

D1 LAST GOODBYE (山本達彦)

D2 すみれSeptember Love (一風堂)

D3 夢の旅人 (松山千春) 🅱

D4 スローダンサー (ガンジー)

D5 夏女ソニア (もんたよしのり大橋純子)☆☆

D6 YES-YES-YES (オフコース)

D7 待つわ (あみん) 🅱

 

演奏: 東芝レコーディング・オーケストラ

編曲: 丸山恵市、山中涼平(☆)、薗広昭(☆☆)

定価: 3,000円

 

遂に未開の領域・1983年に向き合う時がやってきました。ちょっと前、宗内の母体が「大衆音楽・秘境巡り」で明かした通り、個人的には1983年という年は重要な年であり、その年に体験したことの多くが自分の音楽的バックボーンを形成したのですが(近日中にその続きを明かす予定)、歌謡曲に対してはどうだったんでしょうかね。あまり、ここで言いたくないことなんですけど。

前の年の初め、密かに惚れ込んでいたとあるアイドルがいて、その彼女があまりにも「売れない」ことを自分が当時音楽的に最もウマが合った友達に馬鹿にされて、そのことでまじでシリアスな喧嘩をした挙句、「もうアイドルとか日本の流行音楽は聴かない」といじっぱりモードに入って、全米TOP40一辺倒の音楽聴取生活に突入することになったのです。その前年には明大前のモダ~ン・ミュージックに行きまくるなど、関西人のギラギラした部分をまだ引きずっていたというのに、まじ困ったものです。まぁ、思春期故にこんなフェーズに入りがちになるのもしゃあないなってとこですけど、高校生活の保守性が益々自己葛藤に拍車をかけていたとも言えるわけで。

その傾向が83年に入っても続いていたので(ただ、TOP40への傾倒がザッパ、ボウイ、プリンスへの興味を余計高めるというメリットもありましたが)、歌謡曲なんてまともに聴いた記憶がないというと嘘になりもす。やっぱ、「ザ・ベストテン」はちゃんと見ていたし、チャート好き故にオリコン・ウィークリーもずっと購読していて、興味を引くものがあれば追いかけてた。山口美央子さんがやっと「恋は春感」でブレイクして、いい気分にはなっていたし。ここに集められた30曲も、半数以上リアルタイムでの鮮やかな記憶があって、色々と甘酸っぱい(いや、女っ気皆無だったから、それはないか)思い出が蘇ってきます。

この頃の歌無歌謡リリース状況をチェックするなんて、はなから諦めていたので、箱買いでこれとシリーズ姉妹編『ポップス最新ベスト・ヒット30』が巡ってきたのは新鮮な驚きでした。出すところはちゃんと出していたんですね。いずれの曲も律儀にフルコーラス演奏されていて、アレンジ的には原曲の雰囲気を保ちつつ色気を一切出していないので、まずカラオケユース対応のバック音源があり、それに主旋律を被せただけという制作状況は容易に読めるのですが、やはり曲がいいというしっかりした土台があるので、ちゃんと音楽として成り立っているし、でももはや70年代的な場末感とは別物なんですよね。スキー場とか、広めの市民プールとかでさりげなく流れているイメージかな。そう、ジャケが端的に物語ってるけど、ボウリングとか野外レジャーよりも、テニスという印象が強いの。

主旋律を奏でているのは、サックスかフルートのどちらかという潔い選択。特にフルートの方は淡々と、曲中終始表情を変えない演奏で、ガチプレイヤーというより「初見大丈夫ですよね」とスタジオに呼ばれて、一気に演奏しきったガチ勢予備軍の音という印象。そっちの方が好きだからね。その特性は、『ポップス最新ベスト・ヒット30』の方でより色鮮やかに発揮されているので、曲別に熱く語るのはそっちの方で重点的にってことにしますね(汗)。

まぁ、この頃のニューミュージックを軽く見過ごすのも、いいことじゃないけれどね。「初恋」はほんと、永遠のスタンダード曲と言ってもいいし、「う、ふ、ふ、ふ」は当時「恋は春感」の商売敵曲ということで一方的にディスりまくっていたけれど(汗)、シティポップ感溢れるいい演奏になっている。岡村孝子を生んだあみんの曲は3曲も選ばれているけれど、特に「心こめて愛をこめて」が瑞々しくて乙女感あふれる演奏(勿論フルート)だ。ただ、「待つわ」にはこれを凌ぐ最強歌無盤があるので改めて。ここでのサックスのソロはハモリがなくて、ちょっと虚しい。クラウン盤「河のほとりに」以外にも谷山さんの曲の歌無歌謡盤があるのにびっくりという「サーカス」だけど、厳密には石川ひとみの「ひとりぼっちのサーカス」(79年)が初出ですので…ネタ的には最も要注意の予感がする「すみれSeptember Love」は、サウンド的にはなかなかの健闘。マリンバが細かくパンしてたり、ニヤリものだ。808も使ってるのかな。全体的に曲間を詰めた構成も緩さを感じさせず、シティポップ的ニュアンス漂う演奏も多い、意外になめちゃいけないアルバムだ。唯一、「君に、胸キュン。」の欠如が惜しい(ちなみに『ポップス最新ベスト・ヒット30』にも入ってません)。