黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

「有楽町そごう」開店記念日に、16日早く吉田正氏を偲ぶ

ビクター SJV-5024

木村好夫 演歌ギター決定盤 夜のムード・ゴールド20

発売: 1977年

ジャケット

A1 ひとり酒場で (森進一)Ⓐ

A2 昭和枯れすゝき (さくらと一郎)Ⓐ 🅹

A3 酔いどれ女の流れ歌 (森本和子)Ⓑ 🅵

A4 有楽町で会いましょう (フランク永井)

A5 再会 (松尾和子)

A6 女の意地 (西田佐知子)Ⓒ 🅸

A7 花と蝶 (森進一)Ⓓ 🅷

A8 東京午前三時 (フランク永井)

A9 ラブユー東京 (黒沢明ロス・プリモス)Ⓒ 🅴

A10 グッド・ナイト (松尾和子)

B1 東京ナイト・クラブ (フランク永井松尾和子)

B2 盛り場ブルース (森進一)Ⓔ 🅵

B3 さざんか (森進一)Ⓒ 🅳

B4 赤坂の夜は更けて (和田弘とマヒナスターズ)Ⓔ 🅱

B5 命預けます (藤圭子)Ⓑ 🅸

B6 なみだの操 (殿さまキングス)Ⓕ 🅽

B7 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ)Ⓑ 🅸

B8 なみだ恋 (八代亜紀)Ⓐ 🅽

B9 夜の銀狐 (斉条史朗)Ⓐ

B10 誰よりも君を愛す (松尾和子和田弘とマヒナスターズ)

 

演奏: 木村好夫/ビクター・オーケストラ

編曲: 木村好夫Ⓐ、植原道雄Ⓑ、佐香裕之Ⓒ、舩木謙一Ⓓ、章次郎Ⓔ、神保正明

定価: 1,500円

 

全好夫(a/k/a エディ・P)ファンの皆様、お待たせしました…遂にジャケットに本人登場です…(汗)。それはそうと、昨年火曜日のためスルーした一連の水曜日、どうしても歌謡関連のテーマが見つからなかったのが今日。25日故、「発売日」の記録は多々あるのだが、誕生日関連だと、ありそうなのが葛城ユキくらい…ここまで歌謡コネのない日は珍しい。何とか、探し当てたのが「有楽町そごう開店記念日」。1957年の開店当時、キャンペーンソング的に扱われ大ヒットしたのが有楽町で逢いましょうだ。当然、その曲が取り上げられている歌無盤となると、懐メロ懐古的な内容のブツに限られるわけで。好夫ギターの真髄を体験できるこのアルバムは、リアルタイムのヒット曲はほぼ皆無(「さざんか」が一番近い)ながら、オーセンティックな録音は含まれず、全て77年の新録音。数多の歌謡経験を経て、熟成しきったいぶし銀の演奏がたっぷり。ここまで経験積んだのが顔面に出ているとはいえ、当時43歳だもの。恐ろしい。70年代初頭の場末的演奏も愛しいけれど、録音技術やギター周辺のテクノロジーも格段に進歩し、新しい側面で鳴らされる懐かしのメロディーも格別。ビクターということで、他社での演奏が畏多すぎてほぼ皆無(何せ、由紀さおりの「お先にどうぞ」が特例としてビクターから出た位である)な吉田正作品が、6曲も入っているのが特筆事項(太字にしました)。それにしても、吉田メロディーは「別格」である。歌謡曲として一級品ながら、全く色褪せない「モダンさ」を未だに保っているし、件の曲が象徴する通り、それこそ経済成長期の日本のシンボルみたいな存在。こうして歌無盤を聴いても、無意識に歌詞が出てくるもの。リアルタイム曲でもないのに。だからビクター盤はありがたい。

トップの「ひとり酒場で」は、一昔前のような「ファミリー」を率いての演奏か、それとも一人多重録音か釈然としないのだが、間奏とか聴くと後者の気配が濃厚のようだ。この素朴な生ギターの響きは、音を楽しむことの基本そのもの。かと思えば、「酔いどれ女の流れ歌」では、コーラスを交えて小粋に迫ったと思ったら、突然疾走モードに入る実験的アレンジ。77年にしてはかなりの大胆さだ。「女の意地」「花と蝶」のような、何度も録音したと思しき曲では、余裕の好夫節が炸裂しまくるし、「命預けます」では敢えて70年代初頭に避けたようなラウンジ・モードを採用し、意表をついたアレンジ。ちょっとシタールに近づいたような響き(「印度ギター」ではないようだ)で、ねっとり奏でているし、フルートも色っぽく絡んでくる。「なみだの操」が普通すぎて、かえって浮いてるようだ。完全にアコースティック・サウンドによる「なみだ恋」も新鮮。「夜の銀狐」は、曲そのもの以上に「ソーロ・グリス・デ・ラ・ノーチェ」という謎なフレーズが、頭に残りまくる1曲なのだが、その辺の曲に接したのも父の調教があったからなんです…カーステレオにも、好夫ギターの8トラックがいくつもありました。自分の心に刷り込まれた「歌謡」を常に体現してくれる、それが木村好夫ギターの存在価値。真のリスペクトを全力で注ぎたいギタリスト。エッジの効いたベースと共に聴かせる誰よりも君を愛すで、こんな孤独な夜は更けていきます…