黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は岡本信さんの誕生日なので

デノン CD-5007 

ヒット! ヒット! ヒット!/初恋のひと

発売: 1969年4月

ジャケット

A1 初恋のひと (小川知子) 🅶

A2 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅸

A3 帰り道は遠かった (チコとビーグルス) 🅲

A4 風 (はしだのりひことシューベルツ) 🆂

A5 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅷

A6 雨の赤坂 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

A7 華麗なる誘惑 (布施明) 🅲

B1 坊や大きくならないで (マイケルズ) 🅶

B2 ありがとうあなた (佐川満男) 🅲

B3 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅷

B4 愛の奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅶

B5 知らなかったの (伊東ゆかり) 🅴

B6 白いブランコ (ビリー・バンバン) 🅿︎

B7 恋人たちにブルースを (ザ・ジャガーズ)

 

演奏: トミー・モート・ストリングス・オーケストラとザ・ビィアーズ

編曲: 小谷充

定価: 1,800円

 

2月にはバンド・サウンドを基調にした『グッドナイト・ベイビー/ワンダフル・ギター』をリリースしたばかりというのに、畳み掛けるように届けられたデノンでの好夫ギター3作目。インストものに強さを発揮したい新興レーベルとしては、相当おんぶにだっこの気持が強かったのでしょうか、御大も余裕綽々と見えて気合たっぷりに応えております。ディレクターはナイアガラの育ての親として名高い谷川恰氏。ここで過酷な経験を積んだことが、後のナイアガラ仕事にも確実に影を落としたのではないでしょうか。

続く『愛して愛して』での過激の域に達したオーケストレーションで、すっかり仕事人ぶりを印象付けた小谷充氏の情念は、このアルバムで早々と全開。先のアルバムのA面中、「みずいろの世界」を除く6曲がここでも取り上げられているが、別物と言える位革新的なカラーを与えられており、同じ人がリメイクしたと思って聴くとどえらい目に遭うはず。1曲目の「初恋のひと」から、2コーラスフル演奏した後めまぐるしい転調が繰り返された末、あっさりフェイドアウト。魔法をかけられたまま立ち尽くしてしまう感触の中、続く「ブルー・ライト・ヨコハマ」のまさかなイントロが始まるのだ。意表をつく展開の中、好夫ギターが自由自在に泳ぎまくる。「帰り道は遠かった」も場末感と洗練された感覚が同居して不思議な味わいだし、「風」は独特のイントロを得てエレガンスがたっぷり。B面は優しさに溢れる「坊や大きくならないで」からスタート。戦う者を見つめる側の本音の奥には常に、こんな響きが流れているのだろうか。陰からそっと現れるヴァイオリンの音に、その奥に潜む怒りの感情が表れている。横内ヴァージョンの過激さとは好コントラストだ。甘美なオーケストレーションを背に淡々と進んだ末、元祖リア充爆発しろソング「恋人たちにブルースを」で締め。心を込めた好夫ギターの響きは、ラヴ・ジェネレーションを優しく諭す警鐘だ。このままじゃろくな大人にならないぞ、と。その後、日本はどう前に進んだのだろうか、当時の人々に予想する余地はなかったろう。