黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

今日は榊原郁恵さんの誕生日なので

キング SKM-1489

栄光のレコード大賞'77

発売: 1978年

ジャケット

A1 勝手にしやがれ (沢田研二) 🅸

A2 愛の終着駅 (八代亜紀) 🅵

A3 津軽海峡冬景色 (石川さゆり) 🅸

A4 星の砂 (小柳ルミ子) 🅳

A5 思秋期 (岩崎宏美)☆

A6 秋桜 (山口百恵)☆ 🅴

A7 アル・パチーノアラン・ドロン<あなた (榊原郁恵)

B1 帰らない (清水健太郎) 🅵

B2 硝子坂 (高田みづえ) 🅴

B3 あずさ2号 (狩人) 🅴

B4 愛のメモリー (松崎しげる) 🅵

B5 風の駅 (野口五郎)

B6 気まぐれヴィーナス (桜田淳子) 🅱

B7 ウォンテッド [指名手配] (ピンク・レディー) 🅷

 

演奏: ニュー・サウンド・オーケストラ

編曲: 坂下滉、馬場良(☆)

定価: 2,000円

 

こんな風に軽く勝手にしやがれのイントロを奏でられると、3小節目でついつい「おかーさーん!」と叫んでしまう…ええ、団しん也のCMマッシュアップ・レコード「ロック・トンデレラ」をリアルタイムで買った人間ですので(汗)。既に前年のものを取り上げた、というかキング内では実に伝統のアイテムになっていた「レコード大賞もの」の77年盤。「今年はうちの会社のものがないな~」とブーブー言いながら、編成に頭を悩ませた様子が伺えます。地味ながら布施明にヒットが出ていたし、アイドル界では黒木真由美に第二の門出「ギャル」が与えられたりで、決してダメ会社になってはいなかったんですけどね。洋楽の老舗としては、ブロンディをブレイクさせる前にクリサリスが去ったり、アルファ始動を目前にA&Mを失う予兆が現れたり(その途端、ポリスが大ブレイク)と、多少はくさり始めていたけれど。

77年のレコ大はジュリーを筆頭に大豊作で、テレビでも観てたけど、結局その日の全ての記憶は紅白でのちあきなおみに持っていかれちゃった。王道歌謡や王道ポップスに親しみながらも、「カルト音楽」という側面のかけらを味わった瞬間だったかも。その傍らで、妙な実験テープ作りというか、幼さに任せて適当な音遊びもやってたわけですから。「前衛」や「カルト」を意識することより、「無意識」の方が有効な目覚めの手段だと思うし、これは今後も力説し続けたいです。ザッパみたいに、幼い頃からそれを意識する環境に入れられた場合は話は別ですけど、宗内の母体が説く「自然発生音楽」の基本はそれですから。

と言いつつもやはり、その頃の「主流」の記憶は永遠に消えません。心を豊かにするものなのです。「星の砂」を聴いて、例え歌詞が聞こえて来なくとも、ブーゲンビリアって普通この曲で知るものですよねと勝手に問うたり。マウンティングなんかじゃありません。世代ゆえの自覚行動です。歌無歌謡がおびき出すのは、人間の意識の基本中の基本。そんなわけで、いい曲揃いのこの盤。アレンジ的に奇をてらうことなく、70年代屈指の歌謡重要年の空気を凝縮して見せる。どの曲もサックスとギターばっかり、もっとファンシーなアレンジの方がいいなぁとか思いつつ(秋桜のイントロなんてかなりいい感じではあるが)、演奏全体は気が抜けずまとまっている。好夫っぽいけど必死で彼を意識して弾いているようなギターに、微笑ましさを感じる位。

最後に、今日誕生日、未だにアイドルらしい振舞いを忘れず新しいファン層を開拓している郁恵ちゃん。4枚目のシングルでやっとブレイクし歌無歌謡化の恩恵を受けました(なお曲名の固有名詞は、現在の表記に則らせて頂きました。帯に記されたのが当時の表記)。「はちきれんばかり」という言葉の意味を彼女から学んだ人は、自分の世代にはたくさんいるはずだけど、寧ろそっちと逆方向に自分が覚えた甘酸っぱさに直結する要素があります…(ここでアート・オブ・ノイズ「レッグス」のイントロが脳内に鳴り響く…瀧汗)。

ときめきが開かれる時期にそんなアイドルがいたこと。それもまた、人生に与える致命的な影響と思うんですよ…実は密かに恋もしていたんだけどね…