黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

伊東きよ子さんの誕生日は1月24日

デノン CD-5008

尺八 ブルー・ライト・ヨコハマ

発売: 1969年5月

ジャケット

A1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅺

A2 見知らぬ世界 (伊東きよ子)

A3 スワンの涙 (オックス) 🅲

A4 帰り道は遠かった (チコとビーグルス) 🅳

A5 花はまぼろし (黒木憲) 🅲

A6 みずいろの世界 (じゅん&ネネ) 🅳

B1 年上の女 (森進一) 🅹

B2 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅸

B3 純愛 (ザ・テンプターズ) 🅱

B4 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅸

B5 雨の赤坂 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅳

B6 華麗なる誘惑 (布施明) 🅳

 

演奏: 村岡実 (尺八)とニュー・ヒット・サウンズ

編曲: 池田孝

定価: 1,800円

 

昨年数回やった「箱買い」のうち1回が「和楽器もの」に特化した内容で、スタンダードな日本のメロディーを演ったやつとかも大量に舞い込んだのだけど(どさくさに紛れてドラムものとかも混じっていたが)、じっくり吟味する時間に恵まれないし。なかなかチェックできない歌無歌謡以外の盤をいきなりDJできる場所に持ち込んで、直感だけでいきなりプレイという暴挙に及んでみたい気持はあるけれど、果たして許されますやら…

そんな箱の中に、村岡実先生のアルバムが2枚入っていて喜びもひと潮。大映盤の時にも書いたけれど、盤によっては相当エッジの強い内容のものもあり、相当中古市場で高騰している。通常の歌無歌謡盤にしたって、そうも容易に手に入らなくなってそうだし。「演歌大全集」みたいな盤はそうでもないだろうけど。とんがった尺八を聴ければそれでいいのか、って問題じゃないのかな。このデノン盤も、よく聴くと非常にストロングな内容だ。大映盤に引き続き、池田孝氏がアレンジを担当しているが、珍しくフルメンバークレジットされているコンボ演奏(石川晶!佐藤允彦!寺川正興!沢田駿吾!)はあくまでもラウンジモードで、面子の割にど派手に盛り上げる事は殆ど避けている。その音に囲まれ、尺八の可能性を限界まで追求しているのだ。

のっけのブルーライト・ヨコハマから格別。コンボ演奏の軽さに唖然としていたら、そこに立ちはだかる尺八の音の壁。超高音の「ひとよぎり」もフルに使い、殆どフルートのようなひとりアンサンブル。そして、唸りまくりのふかなさけ。この曲には特別な愛着がありまくる宗内も、ただ圧倒されるのみ。こんな風に尺八が吹けていいのか…易々と乙女に持たせていいんですか…(ジャケットの話)。

続く「見知らぬ世界」(発足ほやほやのCBSソニーをアピールするために、全米発売までされたこの曲を「古巣」がまさか取り上げるとは…)ではさらに、ヤバい方向に行っている。イントロのアンサンブルはクラリネットか、見知らぬ国の見知らぬ笛のよう…ディストーションやエコーも、ある程度使っているのだろうか。そんなフラワームードたっぷりの曲も、エモい尺八の真骨頂。スワンの涙ではEQをかまして、より「未知の笛」的な音を出している。オックスのレコードでも沢田駿吾が弾いてたという話をどっかで聞いたような…と思い出させる2コーラス目のギターに、フラッター奏法が襲いかかる。「帰り道は遠かった」は、イントロを尺八で演ると「本来の姿」感が強まったような。コロムビア盤なのに、ライナーではジェノバに言及してない(爆)。B面に行くと、相当冒険した演奏の「ダメよーだめだめ」に意表を突かれる。これはサイケだ。「グッドナイト・ベイビー」のバックのハーモニーは超高音で、リコーダーだとソプラニーノに該当する音域だが、これもテープ速回しじゃないのか…恐るべし。「純愛」大映盤の「エメラルドの伝説」を期待すると、鮮やかに裏切られる。この盤でも最もジャズ色が強い演奏をバックに、純愛どころではない危険な逢い引きの世界が展開…「涙の季節」はラウンジモードがいい方に働いている癒しの場所。この調子でラスト2曲、まったりしたノリの中を自由に、過激に歌いまくる尺八。

こちらもまた谷川恰プロデュースで、ナイアガラ求道者の方にも外してはほしくない名盤。これはそう簡単に再現できるものではないよ。お嬢さんお手やわらかに…がんばってみれば、リコーダーで近いことができるかも(汗)。