黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

赤松愛さん (オックス)の誕生日は2月14日

テイチク SL-1269

バッキー白片の グッド・ナイト・ベイビー

発売: 1969年4月

ジャケット

A1 グッド・ナイト・ベイビー (ザ・キング・トーンズ) 🅵→3/26

A2 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅺

A3 知らなかったの (伊東ゆかり) 🅵

A4 帰り道は遠かった (チコとビーグルス) 🅴

A5 しのび逢う町 (鶴岡雅義と東京ロマンチカ)

A6 雨の赤坂 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅴

B1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅼

B2 港町・涙町・別れ町 (石原裕次郎) 🅵

B3 純愛 (ザ・テンプターズ) 🅲

B4 愛の奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅷

B5 スワンの涙 (オックス) 🅳

B6 忘れないでね (浜マサヒロとリビエラシックス) 🅱

 

演奏: バッキー白片とアロハ・ハワイアンズ

編曲: バッキー白片

定価: 1,500円

 

『コンピューターが選んだ~』でエンディングを飾った時、「ここから先の50数年間増え続けるばかりの、悩める人類への鎮魂歌のように響く」印象を抱いた「グッドナイト・ベイビー」の初出となるのがこのアルバム。様々なサウンドで綴られたヒットパレードの最後に持ってこられると、そんな印象を抱くのもしょうがないけれど、ここではいきなりオープニングに登場。これからいくさが始まるのかなという不安感が、この独特なイントロから空気を覆う。まったりとしたハワイアン・サウンドに乗せて、その空気は徐々に癒しの色へと変わっていく。改めて気づいたけど、エンディングの「グッドナイト~」がなく、イントロのフレーズが再度繰り返されてコーダとなるので、その後何が続くのかという期待感も変わってくる。『コンピューター~』に於いては、何もなくなったところから始まる70年代への展望だ。対してここでは、青空の下始まるヒットパレードへのわくわく感。改めて、アレンジと曲配列って重要な要素だと感じる。

69年に発売されたバッキーの歌謡アレンジ・アルバムはこれが2作目。2曲目以降ラスト前までは見事にマイナー・キーの曲で統一されていて、その上初夏から猛威を振るうフォーク系の選曲がないため、楽天色が希薄な、大和魂を刺激する展開になっている。あんなに哀愁を誘うメロディなのに、不思議と無邪気な乙女心が支配する「知らなかったの」も、あの最高のイントロが放棄されてこの通り。孤独に鏡に向かう水商売1年生の姿が浮かんでくるし、「帰り道は遠かった」は全然違うイントロを配しているのに、馬子唄色が加速。その後はロマンチカとブルコメという好対照なグループの曲が、完璧に同一線上に並んでいる。三原綱木は果たしてこの解釈に頷いたのだろうか…

B面ではブルーライト・ヨコハマがまさかのムード歌謡色を濃厚に帯び、逆説的に都会の色を浮かび上がらせる。「純愛」スワンの涙といったGSクラシックも容赦なく、後者には「白鳥の湖」を導入部に使って大胆に料理。こうなったら「美しき愛の掟」まで演っていただきたかったところだ。

69年のビアガーデンの気分を充分味わった末、ラストに控える「忘れないでね」の印象は、かえって一杯飲んだ翌朝のワークソングの如し。ムードコーラスの曲さえ、そんなものに化けてしまうトロピカルな魔法。ビートルズの「レボリューション」も、ハワイアンサウンドで演ればこんな風になるのかな。学生運動やフォークゲリラと別のところにあった、苦しいけれどなんとか無邪気に生きているみたいな風潮を呼び覚ます一枚だ。愛ちゃんもこの潜伏期間中、訃報が伝えられた一人。オックス脱退後は数多くの謎を残してくれたが、改めてご冥福をお祈りします。