黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

夏も近いのでちょっとギター持ち出しますか

テイチク SL-1270

ギター歌謡ロマンス ブルー・ライト・ヨコハマ

発売: 1969年4月

ジャケット

A1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅶→3/26

A2 知らなかったの (伊東ゆかり) 🅷

A3 帰り道は遠かった (チコとビーグルス) 🅶

A4 雨の赤坂 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅶

A5 恋の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅶

A6 忘れないでね (浜マサヒロとリビエラシックス) 🅲

B1 涙の季節 (ピンキーとキラーズ) 🅼

B2 花はまぼろし (黒木憲) 🅴

B3 愛の奇跡 (ヒデとロザンナ) 🅸

B4 年上の女 (森進一) 🅺

B5 港町・涙町・別れ町 (石原裕次郎) 🅶

B6 夕月 (黛ジュン) 🅸

 

演奏: カンノ・トオル/テイチク・レコーディング・オーケストラ

編曲: 福島正二

定価: 1,500円

 

今回の復活月間は結果的に「ギター強化月間」となりそう。実に1/3がギターをメインにしたアルバムとなり、内3枚が今日の主役、カンノ・トオルをフィーチャーした作品。歌無歌謡全盛期、1ヶ月に5枚以上のペースでリリースを続けていた頃のテイチクにとってはまさに「顔」というべき存在。落ち着いたプレイはいかなる音楽スタイルにも対応でき、雰囲気作りの上手いミュージシャンの代表格。とにかく、正確なリリース枚数を把握するのは不可能に近いけれど、その層の厚さは、昨年3月26日紹介した『コンピューターが選んだヒット歌謡ベスト24』に、ここから選ばれたのがタイトル曲1曲のみという事実が物語っている。

テイチクならではの場末感が濃い、押し込み気味のサウンドでありつつ、ストリングスをゴージャスに起用してロマンティック・ムードを打ち出している1枚で、ジャケットのお洒落さに見合った内容。「知らなかったの」も薄味のテイチク風味でいかにも小さな喫茶店という感じだ。フルートのラブリーな音がなかなか効いている。続く「帰り道は遠かった」はイントロのギターがエコーの海に溺れ、なかなかのサイケデリックさ…と思っていたら、曲本体に入る前にキーが変わるというさりげない魔法。カラオケ前提ではない時代の幻を見せてくれる。恋の季節は旬を過ぎてからの選曲らしい余裕綽綽のプレイだ。場末ゴーゴー色が強い演奏に意外な冴えを投影している。後半に行くにつれて、選曲そのものも場末色濃厚になるが、雰囲気的に統一されているのでそこまで違和感なし。鄙びたオルガンが目立つ場面も増やしつつ、多少山倉テイストが窺えるストリングスの効果が絶大だ。最後は1月新譜だけで4枚も同タイトルの歌無LPをテイチクが暴発した「夕月」を再度持ち出して、ムーディに締める。尺八っぽいフルートが浪漫を感じさせるヴァージョンだ。