黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

新沼謙治さんの誕生日は2月27日

国文社 SKS-116

トランペット・ムード2

発売: 1976年

ジャケット(裏)+帯



A1 ビューティフル・サンデー (ダニエル・ブーン) 🅴

A2 わかって下さい (因幡晃) 🅶

A3 傾いた道しるべ (布施明) 🅵

A4 千曲川 (五木ひろし) 🅵

A5 恋におぼれて (真木ひでと)

A6 二人の御堂筋 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅱

B1 時の過ぎゆくままに (沢田研二) 🅸

B2 誘われてフラメンコ (郷ひろみ) 🅵

B3 女友達 (野口五郎) 🅲

B4 みれん心 (細川たかし) 🅴

B5 おもいで岬 (新沼謙治) 🅱

B6 港町ブルース (森進一) 🆁

 

演奏: 羽鳥幸次 (トランペット)/ニュー・サン・ポップス・オーケストラ

編曲: M.Misaki

定価: 2,200円

 

国文社の第2回発売分「ニュームードミュージック」に対する執着心は、結局未だ完結せず。オリジナルの18枚中15枚集めることまではしたけど、内1枚は別の盤が間違って入っていたし、洋楽オンリーの盤もあと3枚、語る覚悟はしていたけれど、「歌謡フリー火曜日」を今年になって廃止したのでチャンスを失った…まぁ、何を持ってないかは明らかにしませんけどね。そんなことで相場が動いたら恐ろしいです(それ言うな)。

これは比較的後になって手に入れた盤だが、それなりの衝撃が待っていた。元々の『トランペット・ムード』は、『ピアノ・ムード』と共に、第1弾がA面洋楽、B面歌謡という組み合わせで出たが、あまり好評じゃなかったせいか、後々それぞれA面同士(『ある愛の詩』SKS-122)、B面同士(『想い出まくら』SKS-120)組み合わされ、再発売されているのだ。『サックス・ムード』と『ギター・ムード』の場合と同じ。この再発盤の情報を記した帯が付いている盤はよく見かけるが、再発盤そのものを見たことは一度もない。

『ピアノ・ムード』(昨年4月4日参照)が『1』のB面含めて見事に女性歌手の曲だけで統一されているのに対して、こちら『トランペット・ムード』は男性歌手の曲オンリーである。ピアノのトーンそのものが乙女感を強調しているという感じがそれほどなくて、単に乙女の嗜みというイメージから紐付けが行われたと思われるのに対し、こちらは真の男の優しさというか、野生味とはちょっと違うロマンティックな側面が強調されていて、アレンジもそこまで妙なものになっていない。まさしく「金曜ロードショー」のあの世界というか、その枠組みに歌謡がはめ込まれているという感がある。その辺は伊藤強氏が詳しくライナーで書いてくれているのだが(このシリーズ、掴んだ盤によってライナーがあったりなかったりで、それによって捉え方が変わるから困る。『フォーク・ムード2』に欠けているのが惜しかった)。

トリオ盤でとんがったところをフル発揮した羽鳥幸次氏もここでは手堅いメロディーさばきで、完成度の高いサウンドの中を駆け抜ける。オープニングの「ビューティフル・サンデー」は軽めの解釈で、女性コーラスが萎縮気味に支える中さわやかさ満開(しかし、このキーは男性歌唱に向いてない)。添付されている歌詞は松本隆版の方だが、こちらの方は今や忘れ去られている感も…真木ひでと「恋におぼれて」が比較的レア選曲とはいえ、無難に進んでいく…最初の10曲までは(「みれん心」バスクラリネット使用が特異ではあるが)。しかし…なんなんだ続く「おもいで岬」は。『フォーク・ムード』の「神田川」や「岬めぐり」、『ビートルズサウンド』の「カム・トゥゲザー」さえ凌ぐ、第2回国文社最大の衝撃が襲い掛かる。イントロから、全体の演奏から、もろ某超有名曲ではないか。その中に、ニーヌ・マッケンジーのおおらかな演歌が強引に巣を作り始めるのだ。演奏の完成度が高いだけに、余計驚愕ものである。全楽器のパート、細かくスコアが書かれたに違いない。誰なんだろうM.Misakiって。この手の歌無歌謡ヴァージョンでは、ワーナー・ビートニックスの「孤独」と双璧。恐れ入りました。これは交通情報のBGMにマスト。事故を誘発しなければいいのだけど。

最後は実に18番目のヴァージョンとなる港町ブルースの76年型解釈でささやかに幕を閉じる。まさに男のロマン金管楽器。でも、果敢に手にする女の子の存在も頼もしいですよ。