黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

1970年、今日の1位は「圭子の夢は夜ひらく」(2週目)

マリオン W-7002

最新歌謡ヒット・パレード 演歌・ブルース編

発売: 1971年1月

ジャケット

A1 男と女のお話 (日吉ミミ) 🅲

A2 銀座の女 (森進一) 🅴

A3 酔いどれ女の流れ歌 (森本和子) 🅶

A4 恋はここまで (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅱

A5 一度だけなら (野村真樹) 🅳

A6 圭子の夢は夜ひらく (藤圭子) 🅹

B1 命預けます (藤圭子) 🅹

B2 噂の女 (内山田洋とクール・ファイブ) 🅹

B3 さすらいのブルース (和田アキ子) 🅱

B4 長崎ごころ (ジ・アーズ) 🅲

B5 京都の恋 (渚ゆう子) 🅷

B6 波止場女のブルース (森進一) 🅸

 

演奏: 松本浩とマリオン・ポップス

編曲: 松本浩

定価: 1,800円

 

昨年「歌謡フリー火曜日」を設定したため、1970年4月~12月に1位を獲得したヒット曲を讃えるチャンスをことごとく失いましたが、まぁ6曲しかないんですよね。うち1曲は洋楽だし、2曲が藤圭子。「女のブルース」と「圭子の夢は夜ひらく」で、計18週1位を独走してます。アルバムチャートに至っては、3月30日から年末までずっと1位。ラスト3週はクール・ファイブとのスプリット盤でしたが。ほんと、宇多田ヒカルの何百倍も凄かった(爆)。

そんな「圭子の夢は夜ひらく」に、年末の1位独走曲「京都の恋」まで加えたこの盤は、5月5日に紹介したマリオン・レーベルの第1弾、ポップス編の姉妹編。主に取り上げられているのが演歌とは言え、基本的なスタンスは変えず、歌謡ラウンジとしてコンパクトにまとまっているし、ジャケットもまさしくそんな感じ、同一コンセプトだ。新しいレーベルの攻め方を明確に示したのは買えるけれど、売り方が地味で、既に確立されたビクターブランドの一角に食い込めなかったのが惜しい。この後、テナーものとドラムものを散発的に1枚ずつ出しているが、このシリーズそのものは第1回発売の2枚で止まってしまった。MCAの「最新歌謡曲ヒット速報」も同様だけど、まことに惜しい。当時のRCAやフィリップスまで含めてさえ感じるけれど、歌無歌謡に対する洋楽的アプローチは、コロムビアやテイチクの方が遥かに上手かったのだ(商業的な意味で)。あとジャケット…今見ると、当時の美女は表面的に気を遣う部分が今と違ってたんだなという感想しかない(当時の幼稚園児がそんなこと気にするわけないじゃないですか…汗)。

所々ストリングスが華々しさを加えているとは言え、サウンドの基本はポップス編とそんなに変えていないが、ところどころで覗くセンスの良さがさすが松本浩というか。ビクターの黒いレーベルのついた盤でこういう音を聴くと、ちょっと洒落てるけどやっぱ保守的としか思わない。あるのだなぁ、レーベルマジックって。それでも、ミックスや録音における気配りに、新レーベル独自のカラーを確かに感じる。ポップス編で目立っていたフルートに代わって、ここで主に色付けに使われているのが鍵ハモ。使い方によってはリズムギターやオルガンの代わりにもなり得るし、シンプルなのに心強い楽器だと改めて思わせてくれる。ほんと、なめちゃいけないよ。「命預けます」の2オクターブ離れたユニゾンなんて、滅多に聴けない斬新な使い方だ(2種類同時演奏してたりして…意外にできたりするんですよね)。

ラウンジ的に攻めるだけではなく、「酔いどれ女の流れ歌」あたりでは大胆なポップ化に挑んでいるし、「夢は夜ひらく」も泥臭さと洒落た乙女っぽさが同居していて一味違う。そして、やはり松本浩といえばヴァイブ。全体的にいい感じで鳴っている。B面に行くと、小粋さより泥臭さの方を押し出したサウンドに傾いていくが、そんな中に「京都の恋」が入っていると、秘められた場末感が浮き彫りになってしまう。そのくせして、純和風イメージがほとんどないし。当時の四条烏丸あたりのナイトライフが目に浮かぶサウンドだ。一気に洗練感を増す70年代歌謡の曙に、地味に突きつけられたナイスな1枚。