黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

竹内まりやさんの誕生日は3月20日

イーストワールド WTP-72398 

バラード・オブ・ロマンス

発売: 1985年2月

ジャケット

A1 FAREWELL CALL (竹内まりや)

A2 スピーチ・バルーン (大滝詠一)

A3 いとしのエリー (サザンオールスターズ) 🅵

A4 リンダ (アン・ルイス)

A5 クリスマス・イブ (山下達郎)

B1 潮騒 (山下達郎)

B2 ペパーミント・ブルー (大滝詠一)☆

B3 栞のテーマ (サザンオールスターズ)

B4 HEART TO HEART (竹内まりや)

B5 YOUR EYES (山下達郎)

 

演奏: LAP TIME

編曲: 椎名和夫(☆)、LAP TIME

定価: 2,300円

 

さて、困った。ここまで場末モードほぼ一直線でやってきたのに、いきなりのシティポップ…わずかに昨年9月20日の『ニューミュージック・スペシャル』でそっち方面に傾きはしたけれど、今回は選ばれた面子が面子だし。こんな歌無アルバムが1985年2月にリリースされていたんですよ。その当時の自分の心境は、思い出したくもありません。あらゆる面で。その月、4度に渡ってその後の人生に直結する試練と戦った挙句、やっと日本公開されたプリンスの映画「パープル・レイン」を観ていたということだけ、書いておきます。切なさとの戦いで、歌謡曲にロマンを求めるなんてことできなかった。

その頃のリア充共に向けて放たれたのがこのアルバムだったのです。ご丁寧にも、ジャケット裏には誰かさんへのプレゼント対応用に署名欄まである。帯で一部隠れる仕様にしてあるのがまた憎いやないか。ここに並んだ曲が、そんな人達にとってのラブ・サウンズだったんだよ。今考えてみれば、皮肉の極みでしかない。強靭なミュージシャンシップで日本の音楽の流れを変え、40年経ってやっとその真価が海外にまで認められ、新たなファン世代を育成しているすごい人達の曲がである。だからこそ、こんな選曲のアルバムが出てたことに目眩を覚えるし、それに大したプライスタグがつけられてなかったことにも驚くしかない。

たかがパチシティポップなんてなめちゃだめ。ここに集う演奏メンバーは一流すぎだ。青山純がドラムを叩き、伊藤広規がベースを弾き、広谷順子や木戸やすひろが声を合わせるパチソンアルバムがどこにあるか。もう、ほぼ「公認」同然と言ってもいいじゃないか。曲の良さが素直に伝わり、決して色恋の邪魔をしない高度な演奏。選曲も文句なし。竹内まりやの曲が、RVC時代末期に固まっているのは配慮の結果だろうか。HEART TO HEARTなんてロジャニコ作品だったことてっきり忘れていた。レイ・チャールズ盤を予感させるアレンジのいとしのエリーにフィーチャーされている控え目なフルート演奏、クレジットによると衛藤幸雄氏ではないか。「ヤング・ヤング・フルート」から一段と年輪を経て、逆に乙女心が出たような音だ。さらに凄いのが、この段階で「クリスマス・イブ」を取り上げていること。88年以前は、単なる地味なアルバムトラックに過ぎなかったのに(限定シングルリリースはあったが)。この曲にある程度付きまとう絶望感を感じさせない、爽快な演奏になっている。ただ、ドラムは青山純ではなさそう。大瀧さんの2曲の選択はむしろ泣かせる(が、この解説文はいただけない)。大団円「YOUR EYES」に至るまで、時空を越えたロマンスの架け橋が味わえる。でもね、もうこんな音にイチコロにはならないからね…(負け惜しみ)