黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

井上博さん (シューベルツ)の誕生日は7月27日

テイチク SL-1287

歌のない歌謡曲 “ベスト・ヒット12” 恋の奴隷

発売: 1969年10月

ジャケット

A1 恋の奴隷 (奥村チヨ) 🅺

A2 星空のひとよ (鶴岡雅義と東京ロマンチカ) 🅲

A3 或る日突然 (トワ・エ・モワ) 🅾→3/26

A4 港町シャンソン (ザ・キャラクターズ) 🅷

A5 恋のなごり (小川知子) 🅸

A6 粋なうわさ (ヒデとロザンナ) 🅻

B1 雲にのりたい (黛ジュン) 🅶→3/26

B2 青空にとび出せ (ピンキーとキラーズ) 🅲

B3 愛して愛して (伊東ゆかり) 🅷→3/26

B4 禁じられた恋 (森山良子) 🆂

B5 大空の彼方 (加山雄三) 🅴→3/26

B6 さすらい人の子守唄 (はしだのりひことシューベルツ) 🅾

 

演奏: 有馬徹とノーチェ・クバーナ

編曲: 小泉宏、今泉俊昭

定価: 1,500円

 

昨日予告した2曲も含む、3月26日取り上げた『コンピューターが選んだヒット歌謡ベスト24』に抜粋された4曲を聴いてぶったまげ、それらの原典となったこの盤の出現を切望したら、その数ヶ月後あっさり我が手に。切望はしてみるものですが、ウォンツリストとか無闇にこしらえるのも考えものですね。異常に値が張る現象に直結しそうだから。

「君のノーチェ&クッバーナのその~のせいだよ」なんて呑気に歌ってたこともありますが、ノーチェ・クバーナという看板に第一印象を固定しちゃいけないんですよ。名門ラテン・バンドという表の看板に加え、最初の「歌謡フリー火曜日」で取り上げた2枚組に入っていた「メタル・グルー」の、正にぬるぬる維持中(?)なサウンドの印象が強くて、ストロングなサウンドが溢れ出てくるイメージを抱きづらかったわけです。と言えども、あの山倉たかしを輩出したバンドでもあるから、なめちゃいけません。67年の『二人の銀座』は、まだまだスタンダードなラテン基調のサウンドから抜け出ていない印象もあったので、先の4曲にはぶっ飛ばされたとしか言えないのです。追い討ちをかけるように、これの1曲目「恋の奴隷」がぶっとい衝撃を与えてくれた。

16日前に取り上げた筒美京平ヴァージョンが、「さらばシベリア鉄道」を予感させるような北国への旅路路線でアルバムのラストを飾っていたのに続けてこれを流したら、同じ楽曲であるのが信じがたい。ホーン・セクションが自由自在に入り乱れる、正にジャズ・ファンクの極致で、試されてるとしか思えない境地に一直線。ジャケットの思わせぶりさまで含めて、奥村チヨ盤が健全に思えてしまう危険なワールドだ。一転して、ソフトなボサノヴァ・タッチの中始まる「星空のひとよ」では、増田馨のフルートが色っぽく迫る。アヴァンギャルドな間奏は正に異星とチャネリングしている如し。山倉氏さえ、ここまでは思いつかなかったのではないか。「或る日突然」はオリジナルのエレガントさを、ストリングスまで加えてより増幅。「粋なうわさ」バスクラリネットや複数のフルートを動員し、筒美ヴァージョンに負けず劣らずの快作に仕上がった。しかし、こんな冒険的なA面でさえ、まだ序の口。B面で完全にやられる。

奇数曲は『コンピューター~』に流用されたが、やっぱ「雲にのりたい」の破壊力は凄まじく、両面トップでここまでの仕打ちを受けた鈴木邦彦先生の胸中は如何なるものだったのだろうか。「青空に飛び出せ」は半端ない加速ぶりで相当のハードコア化。しかし、最も過激なのは「禁じられた恋」だ。基本的アレンジは完璧にオリジナルに沿っているが、それを踏まえてのサウンドの組み立て方は相当クレイジークラリネットを軸にしたブラス・アンサンブル、ベース・ラインを忠実に奏でるバスクラに度肝を抜かれ、主旋律を奏でるフリーキーな音は一体なんなのだろう…ソプラノサックスを速回ししたように聞こえるし、なんか電子音的な響きをまとっている。そして律儀にキハーダも鳴る。クラウンの大正琴ヴァージョンに匹敵する、この曲のいけない側面を見せられたような気がする。全員一丸となった暖かい演奏の「さすらい人の子守唄」で幕。

バンドメンバーのクレジットもあり、重要人物である池田孝・ジョーヤ増渕両名が離脱したのを除くと、『二人の銀座』の時点とほぼ同じである。『コンピューター~』の4曲に添えられた個別クレジットから推測すると、過激なアレンジを施したのがピアノの小泉宏、ストリングスを加えての比較的手堅いアレンジを手掛けたのがトランペットの今泉俊昭という分担が成されているはずだ。この路線のノーチェのアルバム、まだあるのだろうか気になる…