黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

音よりジャケットの方が健全なアルバムもある

テイチク SL-1281

恋とギターとためいきと 気まぐれブルース

発売: 1969年8月

ジャケット

A1 気まぐれブルース (青江三奈) 🅵

A2 港町ブルース (森進一) 🆃

A3 あなたに泣いた (青江三奈) 🅲

A4 年上の女 (森進一) 🅺→23/6/10

A5 恍惚のブルース (青江三奈) 🅵

A6 花と蝶 (森進一) 🅺

B1 夜明けのスキャット (由紀さおり) 🆁

B2 伊勢佐木町ブルース (青江三奈) 🅳

B3 命かれても (森進一) 🅶

B4 バラのためいき (由紀さおり)

B5 盛り場ブルース (森進一) 🅶

B6 あなたのブルース (矢吹健) 🅵

 

演奏: カンノ・トオルとブルー・クインテット/テイチク・レコーディング・オーケストラ

編曲: 福島正二

定価: 1,500円

 

前作から4ヶ月というハイペースで畳み掛ける、カンノ・トオルの夜のアルバム。前作のファッショナブルなムードから一転して、舞台は夜の盛り場へ。安息を求めて足を踏み入れたら、いつの間にか危険な相引きの世界に…そんな感触の音が展開されているけど、しっかり音の流れにハマってしまうのがこの人のいいところ。しかも「年上の女」は前作のテイクをそのまま使っているのに、全然違和感ないし、むしろ場末感が際立つくらいだ。こんな危ない世界の中に、なぜか組み入れられた「夜明けのスキャット。ここに何故か意地が現れている。イントロのリフはオルガンで奏でられ、そこに鐘の音が絡んでいる。ちょっとでも「こんなにこんなに愛してる」からかけ離れた世界にしなきゃという、テイチクの本音が見え隠れするような。Bメロ7小節目のコードもありがちな変更ではなく、寧ろ清涼感を与えているし、溜めに溜めたエンディングまで一気に聞かせるなかなかの名演だ。そんな幻想の世界を伊勢佐木町ブルース」が玉砕する。ここで初めて、「ためいき」が登場。相当エクストリームに攻めまくり、演奏全体を宙に浮かせる。これは車の中で再生しちゃいけないよ。

ビクターの「ピンクムード・デラックス」は言うまでもなく、音そのものにまでセクシー色をまぶしまくったインスト盤がこの頃には量産されていて、11月新譜で出た『恍惚の”ためいき・ためいき・ためいき…”』(SL-1294)はその筋でも非常に有名盤。山倉アレンジということで、自分も聴きたくてたまらないのだが、そう簡単に手を出させてくれないし、ジャンク市場に落ちている盤ほど危険を孕んでいる(汗)。東芝の「ミッドナイト・ウィスパーズ」名義の盤にも相当やばい出来のものがあるし、これらは扱いに注意しないとね。そんなわけで、この盤では「伊勢佐木町ブルース」のみで済んでいたからよかったけど。「夜明けのスキャット」のB面曲「バラのためいき」を取り上げたのは鋭い。ムーディな響きが夜に溶けていきそう…そこから「盛り場ブルース」の流し的演奏に落とすところも凄い。最後の「あなたのブルース」はやはり、オリジナルに比べると相当軽いが。藤本卓也曲の歌無盤だけ集めてどこまで翔べるか試してみたいところだけど、そう簡単にオリジナルの境地には達しづらいんですよね。いくら演奏が達者な人であってもね。