黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

息の止まった部屋で回り続けるレコードは「精霊流し」なのか?

東宝  AX-4027

最新歌謡ヒット

発売: 1974年10月

ジャケット

A1 ちっぽけな感傷 (山口百恵) 🅶

A2 想い出のセレナーデ (天地真理) 🅴

A3 ミドリ色の屋根 (ルネ) 🅴

A4 愛ひとすじ (八代亜紀) 🅶→3/6

A5 青春の影 (チューリップ) 🅱→22/4/18

A6 美しい別れ (いしだあゆみ)

A7 マリアの鐘 (欧陽菲菲)

A8 北航路 (森進一) 🅷

B1 悲しみのシーズン (麻丘めぐみ)

B2 ふれあい (中村雅俊) 🅺

B3 傷だらけのローラ (西城秀樹) 🅳→3/6

B4 うすなさけ (中条きよし) 🅷

B5 精霊流し (グレープ) 🅳→10/22

B6 空港 (テレサ・テン) 🅳

B7 愛ふたたび (野口五郎) 🅳→22/4/18

B8 秋日和 (あべ静江) 🅱

 

演奏: ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 無記名(!?)

定価: 1,800円

 

ラクル・サウンズ・オーケストラの『最新歌謡ヒット』の番が来ると、最初は萎えるのに、結局語るべきポイントが出てきて面白くなるというのがオチ。何せ毎回このタイトルだし、棚から持ってくる時厄介なのである…しかし、自然と枚数を増やさずにいられない。ジャケットが魅力的で個性を放っているし、必ず1曲は他のレコードで演ってない類の曲が入っているし、そして聴いてみると新たな謎が現出するのだ。「きりきり舞い」や「古い日記」が入った盤を手にするまで、絶対満足できそうにないし、ワーナー・ビートニックスに対してやったように、完全ディスコグラフィー(「演歌大全集」も含めて)を作る喜びにまで見舞われそうな気がする。オンライン情報を見つけるのは困難だろうけど、こつこつ永田町方面に通うとしますか(汗)。

知る限り最後から2番目に出たのがこの盤で(AX-4028の存在は突き止めていず、その盤があったとしたら最後から3番目かも)、まずびっくりするのは、長年付き添ってきた「編曲・福井利雄」のクレジットがないこと。いや、うっかりしていて忘れただけかもしれないけれど…聴いてみると100%ミラクル印ではあるけれど、ミラクル・サウンズ時代の終焉を予感させるようだ。その後のレコードでも、ヒップキャンプス名義のものでなければクレジットなしが常になるのだけど。ユピテルとのヴァージョン共有も含めて、末期ミラクルサウンズの闇は深い。そして、早速その闇の深さが露呈する…

3日前に取り上げた『フォーク歌謡大全集』と共通する選曲が2曲あり、この2枚は同時発売されているのだが、東宝の慣例からすると異例なことに、テイクを変えているのだ。青春の影はこちらのヴァージョンでは鍵ハモの演奏で始まり、あちらではギターの地味な演奏で始まっているが、基本的な演奏は同じで、細かくバランスが変わっていたりして別ヴァージョンのような錯覚を抱かせる。この盤のテイクは8月発売の『最新歌謡ヒット』(AX-4017)にも登場していて、そのヴァージョンカウント記号を3日前のエントリにも付けていたのだけど、こっそり変えておきました(汗…「渚のささやき」と「ある日の午後」にも『大全集』版とAX-4017版で微妙な違いがあることが発覚して、ついでにこれらもこっそり)。もう一曲精霊流しもオケが同じで、楽器の登場に相違点があるだけなのだが、こちらは何とユピテルの怖いジャケットの盤(RH-6)に鮮烈な印象を与えた、あの「怖いヴァージョン」と同じものなのだ。但し、エンディングの鈴の音など、細かい違いもあり、こちらでは3回目の鈴の音がそこまで大きい音になっていない。あのジャケットを見つめながら聴くと、この3つ目の音が確かに怖すぎるけれど、こちらの盤ではその後「空港」が始まるのも手伝って、俗界に降りてきているような印象。やはり、同じ演奏であれ、シチュエーションによって聴感が著しく違うんだなと、歌無歌謡に深入りしたおかげで再確認させられるのだ。ユピテル盤との同テイク疑惑は案の定、 必要以上にエキサイティングに仕上がった「傷だらけのローラ」「愛ひとすじ」(共にRH-9『ヒット歌謡ベスト16』の項で紹介済み)にも付随していた…ああおそろし。その他の曲でもいきのいい演奏が目立ち、「悲しみのシーズン」の乙女度高いフルートや秋日和の暖かいブラスに特に心を揺さぶられるし、「ミドリ色の屋根」は名曲ぶりを加速させる好演。「美しい別れ」の選曲も貴重と約1名に告げておきます(汗)。