黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

普遍の極みにひっそり咲いた安堵の花

東芝 TP-7483 

女は恋に生きてゆく

発売: 1970年12月

ジャケット

A1 女は恋に生きてゆく (藤圭子) 🅴

A2 愛のいたずら (内山田洋とクール・ファイブ) 🅳

A3 銀座の女 (森進一) 🅶

A4 嘘でもいいから (奥村チヨ) 🅴

A5 私生活 (辺見マリ) 🅹

A6 何があなたをそうさせた (いしだあゆみ) 🅷

A7 京都の恋 (渚ゆう子) 🅹

B1 恋のぬくもり (小川知子) 🅲

B2 愛のフィナーレ (菅原洋一) 🅳

B3 誰もいない海 (トワ・エ・モワ) 🅹

B4 悲しみのアリア (石田ゆり) 🅱

B5 愛のきずな (安部律子) 🅹

B6 時は流れる (黛ジュン) 🅶

B7 X+Y=LOVE (ちあきなおみ) 🅸

 

演奏: ゴールデン・サウンズ

編曲: 荒木圭男

定価: 1,500円

 

「歌無歌謡四天王」にゴールデン・サウンズを加えない理由は何なのかという話。まず何より、活動時間軸的に「四天王」とちょいずれている。まぁ、「終わった」のはワーナー・ビートニックスより後だったけれど。あと、東芝における扱いが「中軸」ではあれど全てではなかったこと。サウンド的な好みとか、ジャケットの問題はおいといてですけれど、確かに焦点が定まらないプロジェクトであったと思う。75年の猫ジャケの盤は「おまけ」だったにせよ(例えは悪いが『アサイラム・バーズ』みたいな位置付け?)、それ以降にこの名義によるアルバムが出てたら、一体どんな音を聴かせてくれてただろうか。76年以降のファンシーなサウンドを期待するなら、クリスタルとブルーナイト、そしてクラウン・オーケストラを聴けばいいだけ。まぁ、大場久美子や三谷晃代やマザー・グースの曲の歌無しヴァージョンが聴けるというスリルもあったかもしれないが(汗)。

海外のコレクターからも熱い眼差しが注がれるというゴールデン・サウンズだが、このアルバムは彼らのストライクゾーンにぶっ刺さるのだろうか。自分のにはぶっ刺さりました。まずジャケット。これこそ自分が歌無歌謡ジャケットに求めるものだ…と書くと、変な部分を特定されそうで怖いが、これがまた中の音の世界を気分的に導いてくれるからたまらない。一般に需要が高いと言われるゴールデンのアルバムに、同様のものが期待できるのがあるだろうか…地味ではあるけれど、ゴールデン・サウンズ最高傑作は何かと訊かれたら、自分はこれだと答えたい。

まず、のっけの3曲。これらから普通期待できないであろうファンシーなサウンドが溢れまくる…「女は恋に生きてゆく」の軽いノリ、フルートとバスクラを重ねての純情な音に心が弾む。さすが、28年後宇多田ヒカルを世に送ることになるレコード会社はやることが違う(爆)。「禁じられた恋」に入っていたら興醒めしそうな細いキハーダの音が、余計乙女度を高めているようだ。「愛のいたずら」も鍵ハモをフィーチャーしてお洒落に。ここまで洋楽度が高い曲だと、今までこの曲を聴いて思えただろうか?「銀座の女」も同等に軽いノリで、こちらは好夫ギター以外の何でもないフレージングが炸裂している。そこからA面後半の真にファンシーな展開に導かれるわけで、特に「嘘でもいいから」はストリングスも気合が入り、複数入り乱れる乙女度高い音を躍動させている。「京都の恋」は当然、山内さんの京琴が登場。自社曲となると半端なく力が入っている。オリジナルのオケを使っていないのに、録音セッティングは当然忠実に再現したに違いない。B面曲もこの調子で快調に飛ばし、特に「愛のフィナーレ」のドラマティックさが効いている。名盤『望郷/12の楽器が歌う歌謡ヒット・メロディー』とかなりの部分を共有しているけれど、同作をサージェントとするとこちらはオデオラ?恐らく、好夫先生と山内女帝以外にも共通参加メンバーはいるだろうと思われるが、こういう仕事に生き甲斐を感じた当時のミュージシャンは多幸だっただろうなと今思う。率直に当時のことを喋ってくれる人なんて、もうほとんどいないと思うけど…