黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

体育会系音楽は平和をもたらすことができるか?

エキスプレス ETP-7587

ブラス・アンド・ブラス 恋の追跡

発売: 1972年7月

ジャケット

A1 恋の追跡 (欧陽菲菲) 🅿︎

A2 太陽がくれた季節 (青い三角定規) 🅷

A3 北国行きで (朱里エイコ) 🅶

A4 結婚しようよ (吉田拓郎) 🅻

A5 瀬戸の花嫁 (小柳ルミ子) 🆄

A6 今日からひとり (渚ゆう子) 🅺

A7 新しい冒険 (フォーリーブス) 🅳

B1 ゴッドファーザー・愛のテーマ (ニーノ・ロータ) 🅸

B2 アイルランドに平和を (ウイングス)

B3 ママに捧げる詩 (ニール・リード) 🅱

B4 愛するハーモニー (ニュー・シーカーズ) 🅳

B5 マイ・ワールド (ビー・ジーズ)

B6 オー・マイ・ラブ (ジョン・レノン)

B7 ライオンは寝ている (ロバート・ジョン)

 

演奏: ザ・ゴールデン・ブラス

編曲: 鈴木邦彦

定価: 1,500円

 

歌無歌謡仕事も相当こなしている鈴木邦彦先生だが、何故か今までここには登場せず(ユニオンの破壊的な「花嫁」などは彼のアレンジと、初出となった盤にクレジットされていたが)、洋楽を取り上げた『ダンス専科』を紹介したのみだったが、やっとまともに登場することになりました。こちらも半分洋楽ではありますが…72年、洋楽界のトレンドとなっていた「ブラス・ロック」に大胆にアプローチしたアルバム。とにかく力強い、生ぬるさ皆無のリズム・セクションに乗せて、畳みかけまくるブラス・サウンド。単にロック志向の歌無歌謡や、ジャズ色を妙に強めた歌無歌謡とも相当温度差がある。この熱さこそ真の「体育会系」というべきか、70年代じゃなきゃ出せないカラーが溢れているのだ。「恋の追跡」の疾走感、太陽がくれた季節の本来持つ熱血感をさらに強調したような音色…山内さんのヴァージョンが紡いだ幻想世界から、思いっきりよく現実に戻される。何が凄いって、続く「北国行きで」だよ。自分の曲なのに、必要以上にエネルギーを注入しすぎ。ブレイク抜けまくれそうなギターがさらに煽るし、これはかなりの大冒険。「結婚しようよ」もそこまでやるか感爆裂してるし、穏やかに始まる瀬戸の花嫁も一瞬だけ熱くなりすぎる。オリジナルの良さを生かしている「今日からひとり」を経て、再びセルフリアレンジとなる「新しい冒険」で締め。B面では、ありがちな解釈と一味違う、ひねりの効いたゴッドファーザーから、血の色を多幸感に変えてしまいそうな勢いのアイルランドに平和を」、フルートが純真さを強調する「ママに捧げる詩」へと、変幻自在の展開。元からロック色が濃すぎる曲を選んでないのが逆効果だったか、熱さの点ではA面の完勝だな。最近は武生商業高校吹奏楽部の乙女ファンクにたまらない魅力を感じているのだけど、それに比べると実に直線的なこのレコードの演奏、逆に今のセンスでは再現難しいのではないだろうか…