黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

This sort of thing is my bag, baby

コロムビア YS-10081-J

ヘッド・ライト/筒美京平作品集

発売: 1970年5月

ジャケット

A1 ヘッド・ライト (黒沢明ロス・プリモス) 🅲

A2 ひとりの悲しみ (ズー・ニー・ヴー) 🅶

A3 今日からあなたと (いしだあゆみ) 🅶

A4 さよならのあとで (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

A5 星のナイト・クラブ (西田佐知子) 🅱

A6 東京ーパリ (橋幸夫)

B1 ブルー・ライト・ヨコハマ (いしだあゆみ) 🅾

B2 粋なうわさ (ヒデとロザンナ) 🅼

B3 ミッドナイト東京 (川辺妙子)

B4 フランス人のように (佐川満男)

B5 鍵をかけないで (西田佐知子)

B6 京都・神戸・銀座 (橋幸夫) 🅵

 

演奏: 筒美京平(ピアノ・チェンバロ)とオーケストラ

作曲/編曲: 筒美京平

定価: 1,900円

 

昨年11月11日取り上げた『ヒット・ピアノ・タッチ』以来となる、筒美京平本人のアルバム。しかも全曲自作集ですよ。69~70年にかけて、各社にこの種のアルバムを何枚も残してますが、歌手のヒットレコード量産の合間とは言え決して手加減をせず、たとえ雰囲気作りの一環とは言え高度な響きを作り上げている。その最高到達地点がソニーの『筒美京平の響』と言えそうですが、さすがにこれのレコードはかなりの激レア。『ヒット・ピアノ・タッチ』同様、サブスクサービスで聴けるのが辛うじて救い。

このコロムビア盤も、サブスクの供給源となった『筒美京平ソロ・ワークス・コレクション』でCD化されていて、音源的にはもうおなじみ。最も脂が乗った時期のリリースにもかかわらず、所々にオブスキュアな曲を入れて、下世話な歌無歌謡盤との明確な区別を図っているが、なんと言っても際立つのはひとりの悲しみの収録。今までも散々このブログでネタにしてきた、あの曲ですよ。今回初登場なのに、ヴァージョンカウントは🅶、すなわち7番目。もう解りますね。過去6回はまた逢う日までとして登場した曲です。

自社同レーベルのよしみで、ズー・ニー・ヴーのシングルとして発売してから3ヶ月後にこのインスト盤が送り出されていますが、まさかこの1年後にあんなことになるなんて、作った側は全く予想してなかったはず。その間に映画「野良猫ロック マシン・アニマル』で歌われたりしていたので、知名度ブーストはある程度あったけれど。歌詞が抜かれているので、「また逢う日まで」のインスト盤として聴けるけれど、あのイントロを取り去るなど独自の処理も行われていて、作者自身によるこだわりも読み取れる。Bメロなんて相当フリーに解釈してるし。蛇足ですが過去「黄昏みゅうぢっく」で取り上げた曲の中にも一つ「異名同曲」の例があり、黒木憲のB面曲「別れても」が後に和田浩司によって「久しぶりだね」としてリメイクされ(歌詞は同じ)、有線ヒットしたのだが、そのいずれの際にも歌無盤で取り上げられているのだ。地味な例なので気付きにくいものですが、実にまれなパターンである。

その他にもこの盤で取り上げられたのが初紹介の曲が4つあって、いずれも本人による正しい再解釈で「公認歌無盤」の威光を放っている。特に「東京ーパリ」のクラシカルささえ感じさせる高貴さったら!この難しいピアノフレーズまでも譜面に書いたのだろうか。本人演奏なのでそうじゃないという線もあるけれど。「鍵をかけないで」もストリングスとの絡みで、夜の逢い引き色などどこ吹く風。勿論、その他の曲も気合入りまくり。「ブルー・ライト・ヨコハマ」も自レーベル曲なので、出だしなどオリジナルのオケを流用してるのではと錯覚させるが、間奏に入ってあっと驚く展開を見せる。その間奏も「歌メロ」を奏でていて、これはいしだあゆみへのリスペクトを表したというところか。他の歌無盤を聴くと「ちゃんと間奏弾いてる、素晴らしい」とか「ここで間奏弾かないなんて」とか突っ込むんですけど(「わたしの城下町」に対しても同様)。「粋なうわさ」東芝盤とちょっと違い、ロマンティック度若干高め。何せ録音の良さも際立っており、1枚のアルバムとしてしっかり重宝すべきもの。まさに、日本の『バート・バカラック・プレイズ・ヒズ・ヒッツ』。タイトルの元ネタ、これで解りましたか(瀧汗)。