黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌無歌謡界屈指のミステリー

ローヤル RS-1110

圭子の夢は夜ひらく ブルー・トランペット

発売: 1970年

ジャケット

A1 圭子の夢は夜ひらく (藤圭子) 🅻

A2 マンハッタンの夜 (ローヤル・ローズ)

A3 燃える手 (弘田三枝子) 🅷

A4 笑って許して (和田アキ子) 🅳

A5 空よ (トワ・エ・モワ) 🅳

A6 くやしいけれど幸せよ (奥村チヨ) 🅹

B1 四つのお願い (ちあきなおみ) 🅹

B2 むろらんの夜 (椿まみ)

B3 愛の旅路を (内山田洋とクール・ファイブ) 🅷

B4 あなたならどうする (いしだあゆみ) 🅹

B5 鳥になった少年 (田中のり子)

B6 経験 (辺見マリ) 🅷

 

演奏: 福原彰とモダン・サウンズ

編曲: 無記名

定価: 1,800円

 

近年、そのカルト性にますます惹かれる者を増やし続けるローヤル・レコード。その熱の高まりを具体的に記した文献に未だ目を通していないので、あまりでかいことは言えないのだけど、mixiのローヤル・レコード・コミュニティに突如姿を現したシングル盤ディスコグラフィーはあまりにも衝撃的で、こっそりダウンロードして重要書類フォルダに入れている。で、アルバムの方はというと、そこまで解明が進んでいると言えない。

そのシングルディスコグラフィーによると、RA品番(400円、黒レーベル)で最初に出たのが野添マリの「小猫のように」で、1111番という特殊なスタート。海外にもホワイト・ホエールやダンニッジといった、1番スタートではないレーベルがあるので、別に不思議じゃないと思ったし、同じ1111番で出た歌無歌謡アルバム『月の世界でランデブー』を一昨年10月14日に紹介したので、当然それが新シリーズのスタートと思いきや、その前の番号があった。それがこのアルバム。ということは、RA品番のシングルにも1110番以前があるのかも。謎が謎を呼ぶ…

音楽的にどうのこうのいうよりも、この辺のカルト話でスペースが埋まりそうだが、内容的にはDPS方式全開のシャープなサウンドで、当時のスタジオの空気が伝わってくる中、手堅くトランペットが先導していくとしか言えない。アレンジャークレジットはないが、数曲で聴こえるピアノのタッチから判断すると、柳ヶ瀬太郎氏で間違いないでしょう。ジャケットはこの表の写真が一番おとなしく(?)、それでも帯の配置はちょっと考えましたよ(汗)。裏はもっと際どいし、内側の写真は小道具の使い方が危険すぎます(汗)。

『月の世界でランデブー』では椿まみ推しまくりで、ジャケットにまで起用していたが、このアルバムにも当然自社推しがある。まずは「マンハッタンの夜」。66年発足当時からレーベルの顔として力を入れていたローヤル・ローズの3枚目のシングル(つーか、尋常ではないスローペースのリリース)。当初B面だったが、70年6月に推し曲として再リリースされている。ジャジーでなかなかいい曲で、トランペット映えするんで選曲されたのでしょうか。原曲も柳ヶ瀬太郎アレンジですがかなりカラーが違う。そして、問題はもうひとつの「むろらんの夜」。72年に結果的にラストシングルとしてリリースされた椿まみの曲なのだけど(撤回説があったが、最近某オークションに市販盤が出品されたので信じがたい)、この歌無盤の方が2年も先行して発売されているのはどういうことだ。

で、ここからは憶測でしかないのだけど、「月の世界でランデブー」が意外に息の長いヒットになってしまったため、RA品番になってからのシングルは1127番の「京の女」までリリースされなかった(この曲のインスト版は『月の世界でランデブー』に収録されており、B面1曲目という推しにふさわしい位置にある)。ということは、当然間が相当空いており、「むろらんの夜」は恐らく1110番としてリリースするために一旦準備されながら、前述の「月の世界~」を引っ張りたいという理由か何かでお蔵入りになってしまったのではないか。しかし、歌無ヴァージョンは作ってしまったため、勇み足で発売したと。勿論、この曲のためにこのアルバムを買う人は恐らくいないだろうと、制作陣も当時読んだに違いない。そしてそろそろ期は熟したと72年1月に本家盤を発売しようとした矢先、あの悲劇が…ああ、歌のない歌謡曲が呼び覚ますまさかのドラマ。

オルガンのサイケな響きが虚無の世界へと導いてくれる、なかなかの佳曲。トランペットも鎮魂歌のごとく唸りを上げている。「四つのお願い」「経験」の柳ヶ瀬節全開アレンジ、藤本曲を気合で処理する「愛の旅路を」、あまり取り上げられないけどいい曲「鳥になった少年」などB面に聴きものが集中してるけど(勿論「燃える手」も)、やはり「むろらんの夜」が全部持ってってしまってます。