黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その44: ロックに近い歌無ポップス!

ユニオン CJP-1044~5

ドラム・ビート・ドラム/ポピュラー・ヒット・ベスト28

発売: 1971年

ジャケット

A1 バタフライ (ダニエル・ジェラール)

A2 恋のかけひき (ハミルトン、ジョー・フランク&レイノルズ) 🅱

A3 黒い炎 (チェイス) 🅱

A4 悲しき恋心 (ショッキング・ブルー)

A5 バングラ・デシュ (ジョージ・ハリスン)

A6 エス・イッツ・ミー (エルトン・ジョン)

A7 メロディ・フェア (ビー・ジーズ) 🅳

B1 喜びの世界 (スリー・ドッグ・ナイト)

B2 いつか会う日まで (パートリッジ・ファミリー)

B3 明日への願い (リンゴ・スター) 🅱

B4 美しき人生 (ジョージ・ハリスン)

B5 ワン・バッド・アップル (オズモンズ)

B6 ある愛の詩 (フランシス・レイ) 🅴

B7 ネバダ・ファイター (マイク・ネスミス&ファースト・ナショナル・バンド)

C1 イッツ・トゥ・レイト (キャロル・キング) 🅱

C2 シーズ・ア・レディ (トム・ジョーンズ) 🅱

C3 シルバー・ムーン (マイク・ネスミス&ファースト・ナショナル・バンド) 🅱

C4 グッド・サリー (ショッキング・ブルー) 🅱

C5 雨を見たかい (クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル) 🅱

C6 さすらいのギター (ザ・ベンチャーズ) 🅷

C7 ローズ・ガーデン (リン・アンダーソン) 🅳

D1 流れ者のテーマ (フランシス・レイ) 🅱

D2 すてきなフレンド (バガルーズ)

D3 ノックは3回 (ドーン) 🅳

D4 マイ・スウィート・ロード (ジョージ・ハリスン) 🅳

D5 移民の歌 (レッド・ツェッペリン)

D6 シーズン (アース&ファイアー) 🅱

D7 ナオミの夢 (ヘドバとダビデ) 🅳

 

演奏: 石松元、田中清司/鈴木邦彦&ヴィーナス

編曲: 鈴木邦彦

定価: 2,000円

 

1971年こそ、正に「歌無ポップス」頂点期。ロック・アーティストの記念碑的来日公演が相次ぎ、レコード・セールス的にもいよいよポップス/ロックが中枢に食い込み始めたこの年、ヤングなフィーリングを盛り上げる道具としてこの手のレコードが多発したのも必然のようなもので、この年創業したワーナー=パイオニアがこの方法論を歌謡曲に適用し「華麗なる~」シリーズに着手するなど、歌無歌謡に与えた影響も多大だった。選曲的にもカラフルなものが多く、アレンジにも気合が入った挙句一部のレコードが「レア・グルーヴ」として持ち上げられるなどの副産物も産んだが、買いやすいと思ったものにはとことん手を出していきたい。

特にテイチクと傘下のユニオン・レーベルはこの手の歌無ポップスに異常に力を入れており、最初の歌謡フリー火曜日で紹介した「シカゴ11」など相当やばい音源をも残している。その辺をCDコンピ化したいという野望も、2000年代初期にテイチクでCD再発仕事に携わった時、抱いていたんですけどね。またチャンス巡ってこないかしら。

この復活月間のためのネタを準備している間、そんなユニオンからの2枚組が2つ巡ってきたのだけど、まずはその片方を紹介。曲が8曲被っているけれど、性格的には好対照で、故にもう片方は次の復活月間のために保留しておきますね。こちらは当時乗りに乗っていた鈴木邦彦先生がアレンジを手がけ、2大ドラマーをフィーチャーしてのグルーヴィ・ポップス大会。この名義でのリリースは以前にもあったのだけど、主に洋楽を取り上げた中に混入していた「花嫁」があまりにも過激すぎ(このヴァージョンは、一昨年8月11日紹介したアルバムに流用されている)、このアルバムでも当然その延長線上にあるサウンドが炸裂している…と思いきや、そこまでのヤバさは感じない。やはり素材の違い故でしょうかね‥1曲目「バタフライ」に針を落とした途端、一瞬「襟裳岬」が始まったのかと錯覚させるが、歌無ヴァージョンを聴いて改めて、意外な共通項に気付かされるのも面白い。ドラムブレイクから派手なブラスサウンドに導かれ、ここからは昭和ダンスパーリーに一直線だ。「恋のかけひき」も、あの「花嫁」で聴かれた響きの、恐らく水谷公生と思われるギターが炸裂。で、3曲目「ゲット・イット・オン」なのだが、作者名マーク・ボランとなっており、過剰に期待…したがチェイスの方やないか!法務部大丈夫か?肩透かし感はないけれど、「期待通り」のサウンド故ちょっと萎える。ちなみにこの曲の解説を記したページは紛失していました(涙)。こうやって聴くと、聴き慣れた曲が多い故安心感しかないのだよね。「明日への願い」「イッツ・トゥ・レイト」もシカゴ11盤の過激さやヘロヘロさに慣れすぎた故、真っ当すぎる解釈としか思えない。恐らく鍵盤以外、同じようなメンバーが演奏してるはずなのに。後者に関しては、鈴木邦彦先生が手がけたおがた愛「ひとつ残らずあなたに」の方に、本来のその曲色を濃厚に感じるのだが(汗)

そんで、もう一つそんな例があって、これは同じユニオンが出した「ヤスジのオラオラ節」だが、その作者がその元ネタとされている曲にガチでアタックしている。言うまでもなく「移民の歌」なのだけど、こちらの方はしっかりZEP色を保っていて重厚なサウンド。でも、そこにガッカリ感はないんだよね。やはり、シリアスに演ってるところが伝わってくるし。他にもスペクター色が一掃されたジョージの3曲(これだけ優遇されるとかえって嬉しいですよね)、まさかの「すてきなフレンド」など聴きものが満載。全体的に走りまくっているベースは、当然武部秀明だろう。ドラムもバランスのいい録られ方だが、「ノックは3回」ではまさかのギャグまでかますし。こうくるか、っていう。そういえば、小学生の頃適当に買った歌無ポップスのテープに入っていた「シーズン」がめちゃアヴァンギャルドなアレンジで、アース&ファイアー盤を聴く前だったのでびっくらこいたのだけど、あのヴァージョンには果たして再会できるだろうか…