黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

ヴァイオリンス抜きのサックスこそ至高の世界(汗

フィリップス FS-8074

サックス!サックス!サックス!/魅惑のツイン・サックス・ヒット・ムード

発売: 1970年2月

ジャケット

A1 花と涙 (森進一)Ⓐ 🅺

A2 ヘッド・ライト (黒沢明ロス・プリモス)Ⓓ 🅳

A3 懐かしの人 (千昌夫)Ⓑ 🅱

A4 涙のみなと (愛田健二)Ⓓ

A5 夜と朝のあいだに (ビーター)Ⓓ 🅶

A6 雪子 (フランク永井)Ⓑ

A7 波止場のブルース (ソウルフル・ブラッズ)Ⓒ

B1 人形の家 (弘田三枝子)Ⓐ 🅻

B2 恋泥棒 (奥村チヨ)Ⓐ 🅺

B3 池袋の夜 (青江三奈)Ⓑ 🅲

B4 あなたの心に (中山千夏)Ⓒ 🅹

B5 恋人 (森山良子)Ⓒ 🅽

B6 愛の化石 (浅丘ルリ子) 🅴

B7 ひとり寝の子守唄 (加藤登紀子)Ⓒ 🅴

 

演奏: 海老原啓一郎、松本英彦/オーケストラ名未記載

編曲: 利根常昭Ⓐ、林一Ⓑ、海老原啓一郎Ⓒ、馬飼野俊一

定価: 1,500円

 

字面的に赤面もののタイトル(個人的にはラップ・アーティスト、サン・オブ・バザークの某曲名を連想…汗)に惑わされてしまいそうな、サックスの達人2名を均等にフィーチャーしてのアルバム。共に1926年生まれというから、当時の段階でも大ベテラン。こんなガチミュージシャンが決してせめぎ合いにならず、達者な息をムーディにブレンドさせるとは、なんてピースフルな時代…いや、この頃だって今にも増して殺伐としていたはずだけれど、それを中和するだけの音楽の力があった。そうなんですよ。初めにサックスありき、って誰かが言ってました(汗)。

左のチャンネルからアルト主体の海老原氏のプレイが、右のチャンネルからテナー主体の松本氏のプレイが聞こえてくるという、フィリップスの王道に則ってのミキシングが親切。お互いのプレイの特色をうまく捉えられる。ここぞとばかり暴れることもなく、曲のムードに調和。通俗的なメロディーでもそこまで下世話さを出さず、スムーズ・ジャズ的に響く。A面なんてど演歌の王道にはまりそうな展開だけど、アレンジも洒落た感じにまとまっているし、小粋な部屋でのひとときに最適。「懐かしの人」なんてお互いにフルートで揃え、甘美にハモリを聞かせてくれるし、バックのサウンドも押し付けがましくない。あっと驚く自社推し選曲は、あのヒデ夕木が在籍していたバンド、ソウルフル・ブラッズの「波止場のブルース」。地味ながらソウルフルな咆哮を聞かせる、早すぎた逸品。ウーマン・トーンに挑んでみせるB面では清楚に始まりながら、いきなりグルーヴィに展開する「あなたの心に」が拾いものだ。「愛の化石」は女性ボーカルをあしらいつつ、浅丘ルリ子の語りをサックスに置き換えてみせる松本氏の奮闘が聴きもの。「前衛音楽を研究」した成果が現れている(まさか)。

まぁ、ヴァイオレンスはいけないけど、ヴァイオリンはいくらあってもいいですよねと、謎の結論に導く(汗