黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

歌謡フリー火曜日その47: 追悼…スティーヴ・ローレンス

ユニオン CJP-1050~1

トップ・オブ・ザ・ポップス・ベスト28

発売: 1971年

ジャケット

A1 霧の中の二人 (マッシュマッカーン)

A2 太陽は燃えている (エンゲルベルト・フンパーディンク) 🅲

A3 魔法 (ルー・クリスティ)

A4 ミスター・ロンリー (レターメン) 🅱

A5 移民の歌 (レッド・ツェッペリン) 🅱

A6 ハロー・リヴァプール (カプリコーン) 🅱

A7 サインはピース (オーシャン)

B1 ある愛の詩 (フランシス・レイ) 🅵

B2 シーズ・ア・レディ (トム・ジョーンズ) 🅲

B3 マイ・スウィート・ロード (ジョージ・ハリスン) 🅴

B4 喜びの世界 (スリー・ドッグ・ナイト) 🅱

B5 薔薇のことづけ (ジリオラ・チンクェッティ)

B6 ローズ・ガーデン (リン・アンダーソン) 🅴

B7 さすらいのギター (ザ・ベンチャーズ) 🅹

C1 メロディ・フェア (ビー・ジーズ) 🅴

C2 ポーリュシカ・ポーレ (赤軍合唱団) 🅶

C3 ブラック・マジック・ウーマン (サンタナ) 🅲

C4 愛のために死す (シャルル・アズナヴール) 🅱

C5 雨のフィーリング (フォーチュンズ) 🅱

C6 アメリカ (サイモン&ガーファンクル) 🅱

C7 サマー・クリエイション (ジョーン・シェパード) 🅱

D1 バングラ・デシュ (ジョージ・ハリスン) 🅱

D2 黒い炎 (チェイス) 🅲

D3 シェリーに口づけ (ミッシェル・ポルナレフ) 🅲

D4 涙のハプニング (エジソンライトハウス) 🅱

D5 ゴー・アウェイ・リトル・ガール (ダニー・オズモンド)

D6 出ておいでよ、お嬢さん (ポール&リンダ・マッカートニー)

D7 イン・ザ・モーニング (ビー・ジーズ)

 

演奏: ユニオン・シンギング・オーケストラ

編曲: 無記名

定価: 2,000円

 

復活2日目にして早くも「歌謡フリー火曜日」です。今回も仕方なく洋楽ヒット曲を取り上げたものが中心となるのですが、それ以外にいいネタが巡ってこないんですよね…選球眼にもよるのですけど。

昨年11月14日紹介した『ドラム・ビート・ドラム』に続くユニオンの2枚組で、その作品と8曲被っているが、内容的には好対照と言えるもの。楽団名を見ると、69年に乱発された「シンギング・サウンド」シリーズの名残が濃い音が展開されているのかと思いきや、それなりに冒険的な展開も随所に見られて、むしろ全体的な印象は11月28日紹介したワーナー・ビートニックスのアルバムの方に近い。そちらとも6曲被っているけれど、アレンジの傾向は変わっているし。アレンジャー・クレジットがないのが謎だけど、池田孝氏という線はなさそう。ラブ・サウンド的な方向に行きつつ、躍動感を生かし、かつ実験的な味付けが効いている。

冒頭の「霧の中の二人」だが、79年までのオリコン1位曲の歌無盤が全部揃ったと思いきや、洋楽で手に入っていなかったのが2曲あって、その内の片方。それだけでも安心する…意外にもムーディなイントロで始まっているが(日本盤シングルで非情にもカットされた元々のイントロとは全然違う)、次第にビートが効いていつつも甘美なサウンドへと様変わりする。チープなラブソングの面影はどこへやら…と思っていると、ヴァイオリンを電気処理したサウンドが登場して意表を突いてくる。最初はコルネットヴァイオリンかと思った…けど、これは絶対アンプを通した音だし、斬新な試みだ。「黒い炎」で聴こえる、レズリーを通したフリーキーなプレイもどうやらヴァイオリンのようで、ここまでできる人が一体どこに隠れていたのだろうか…驚愕の選曲「出ておいでよ、お嬢さん」ではフランジャーまでかましてしまうし、ガチプレイヤーの意外な冒険心が伝わってくる。こちらも日本独自の大ヒットとなった「魔法」もついつい口ずさんでしまうし、ミスター・ロンリーのハーモニカの音も萌え心をくすぐる。『ドラム・ビート・ドラム』にも収録されていたZEPの「移民の歌」は、ガチロック色を感じさせないながら心を揺らすアレンジ。途中フリーキーな間奏を挟み込んだりして、決して呆れさせない出来だ。ここでもディストーション(?)の効いたヴァイオリンが暴れている…スペクター色が一掃された「マイ・スウィート・ロード」に萎え気味になっていたら、続く「喜びの世界」歓喜。ビートニックス版「青空は知らない」で聴かれたのと同じ笛の音で、フットワークの軽いリードが聞こえてくるし、グルーヴィなリズムに負けていないストリングスのプレイも心弾む。間奏やエンディングで聞かれる笛のアドリブもびっくりもので、これはジャズ心のあるプレイヤーでなきゃできない演奏だな。ということは、自らのリーダー作でもあらゆる笛を取り出していた横田年昭氏あたりのプレイだろうか。こういうのを、昨今のいきのいいフルーティストの演奏に期待してしまうんですよね。「さすらいのギター」ポーリュシカ・ポーレなどの解釈も、歌無歌謡で聴けるそれとは一線を画すし(でもやはり、欧米のヒット曲に混じって聞こえてくると違和感が)、前述した通りのフリーキーなプレイが先導する「黒い炎」もオリジナルを越える破壊力だ。まぁ原曲が「花嫁」や「知床旅情」でない分、衝撃度は薄れるけれど…もう一つ、激萌えなのがシェリーに口づけ」。イントロのコーラスをフルートのアンサンブルで聴かせた後、こちらはより本来の味で吹かれるリコーダーが。71年の段階でちゃんとフィーチャーしていたのが偉い。2コーラス以降はサポートに回るのが惜しいけれど、早いフレーズを楽しそうに吹いている。やはり、学生アルバイトにはできないプレイだな(汗)。まぁあれ(何?)もあれでいいのだけど。このヴァージョン、残念なのはあのメロトロンのフレーズがないことだけだ(例えメロトロン以外の楽器でプレイされていようがだ…)。かと思えば「涙のハプニング」は「あずさ2号」みたいなサウンドになっているし。これもまた、アレンジの妙味。 「ゴー・アウェイ・リトル・ガール」もラブリーすぎるし。「ミスター・ロンリー」や「イン・ザ・モーニング」にアルトリコーダーを幻聴してしまいそうですが、そこまで含めてイマジネーションを刺激してくれる、高度なサウンドが聴ける2枚組。