東芝 TA-5057~58
エレクトーン・ラヴ・サウンズ・ベスト30
発売: 1974年
A1 サウンド・オブ・サイレンスⒶ
A2 天国に心奪われてⒷ
A3 雪が降るⒶ 🅳
A4 エーゲ海の真珠Ⓒ 🅲
A5 さよならを教えてⒶ
A6 ロンドンデリー・エアⒹ
A7 パピヨンのテーマⒸ 🅱
B1 マイ・ウェイⒶ 🅳
B2 ジャンバラヤⒶ 🅴
B3 おもいでの夏Ⓖ
B4 追憶 (バーブラ・ストライサンド)Ⓐ
B5 ディープ・リバーⒺ
B6 サニーⒻ 🅴
B7 今宵やすらかにⒷ
B8 ララのテーマⒶ
C1 風のささやきⒶ
C2 ノルウェーの森Ⓔ
C3 ブーべの恋人Ⓐ 🅱
C4 愛の別れⒶ
C5 やさしく歌ってⒷ
C6 リッチマンⒹ
C7 さらば夏の日Ⓐ 🅱
C8 エリナー・リグビーⒻ 🅱
D1 幸せの黄色いリボンⒶ
D2 シングⒼ 🅲
D3 あの愛をもう一度Ⓐ
D4 虹の彼方にⒻ 🅱
D5 燃えよドラゴンⒶ
D6 個人教授Ⓒ 🅱 (ヴァージョン🅰は「愛のレッスン」で21/7/20に登場)
D7 ジュ・テームⒶ
演奏・編曲: 斎藤英美Ⓐ/大橋澄子Ⓑ/沢明子Ⓒ/日野正雄Ⓓ/中野啓子Ⓔ/池田小雪Ⓕ/中河紀美江Ⓖ
定価: 2,400円
やはりエレクトーンのレコードとなると特別な愛着が湧きますが、これは3年前、初期の黄昏みゅうぢっくで取り上げた「シンセサイザーの魅力 ホーム・コンサートVol.4」に性格が非常に近いアルバム。表向きには雰囲気作り盤の形相を示しているけれど、見開きを開けるとエレクトーン実践者以外には訳わかな文章がぎっしり。とはいえ、譜面の類は載せられていず、レコードを聴く人にどのように演奏すればいいかという設計図を与えているのみ。ムード・ミュージックを期待して買った人は開いた口がポカンだろうな…けど、聴くだけでもいろんなものが見えてくる、興味深い盤だ。かのセキトオ・シゲオの一連の盤にしても、当時の制作背景を考えるとそんなもんだったんだろう…でも、今やそれらのレコードは全く別の意味を与えられ、めちゃ神格化されているし。
中心となっているのは大御所・斎藤英美氏で、彼の演奏が半数を占めているが(セッティング解説は全て彼が手掛けている)、あと半数は彼の門下生と思しき名も無いプレイヤーの演奏だ。ヤマハ所属のお嬢さん達と違って、独自の活動を行った形跡も残されていないし、手がかりとなるのは僅かに記された顔写真のみ。しかし、その演奏を聴くと、名もなき人で終わってたまるかという意地が伝わってくる。
まずすごいのはミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパースター』の挿入曲である「天国に心奪われて」。重厚なオルガンサウンドからスリリングなファズトーン気味のプレイに突入し、正確なリズムで蹴りを入れられるベースに心を踊らされる、魔女の意地が炸裂する1曲。おっとりしたお姉さん顔して、なかなか侮れない技巧派の大橋澄子さんは、いきなりノイズ気味の音でスタートする「今宵やすらかに」(原題は “Everything’s Alright” だが、アウト・キャストやボウイでおなじみのあの曲ではない)でもがんばりを見せている。彼女の演奏曲ではなぜか使われていないプリセットリズムの存在が、独自のグルーヴ感を与えているのがアルバム全体の特徴だけど、沢明子さんの「エーゲ海の真珠」はそのおかげで、オリジナルにない滑稽さを編み出しているし、その分ポップな感触が強い。ホール&オーツ「キッス・オン・マイ・リスト」を先取りしたようなノリだ。選曲的にはこのセットの中でも驚愕度が高い「さよならを教えて」も、このリズムのおかげでキッチュ度が高まっているが、御大の演奏故に手堅さが真っ先に伝わってくる。
もう一つこのアルバムの特徴は、ごく一部にコルグのシンセ、ミニ・コルグ700Sが使われていることで、正にGX-1前夜、ヤマハのトップシークレットを予感させるようなシンセ音を、地味にスパイスとして取り入れているのだ。と言っても、そこまで奇を衒った音色やフレージングがあるわけでもなく、エレクトーン・サウンドに自然に溶け込んでいる。特に「ジャンバラヤ」では目立つけれど、オルガン本体に仕込まれたワウワウ・エフェクトも併用されたおかげで、トリッキーな感じが余計強調されている響き。
2枚目に行くと、いかにもシタール的なドローン・サウンドから滑稽感が増したリズムで本体に突入する「ノルウェーの森」で、見た目おっとり気味なお嬢さん中野啓子さんのお茶目さが爆発。どうせなら「スパイ大作戦」のテーマを挟んでいただきたかった(爆)。同じくビートルズの「エリナー・リグビー」は、はっちゃきにはじけたアレンジが悲壮感を完璧に取り去ってみせる。 “Ah look at~” を奏でた後入れるグリッサンドが可愛いすぎる!これを解らない人にビートルズを語る資格はないね(それ言うな…爆)。おしゃれさん・池田小雪さんの意地の見せ場だ。一方、中河紀美江さんは終始目立たず、おっとり乙女的なプレイ。「シング」のイントロの笛的な音に恥じらいがのぞく。
しかし、やっぱり最大の期待曲は「燃えよドラゴン」だ。超高速プリセットリズムに、シンセによるファニーなリード、ヌンチャクを模した金属音…レア・グルーヴとまでは言わないけれど、時代のヤバさを凝縮したようなサウンドで、レジデンツ的なカラーも覗く。そして、これはブレイク・ビーツとして使っても絶対違和感ない最終曲「ジュ・テーム」へと突入。これこそがラブ・サウンド…なんか、このままエレクトーンがあるラブホの部屋へと導かれてしまいそう(瀧汗)。 御大が演奏する愛の調べに乗せて囁くのは、一体どのお嬢さん?ゲンズブール役は日野正雄さんか?…これ以上は語れませんけどね。
ところで意外にも今まで登場していなかった「サウンド・オブ・サイレンス」が本盤に含まれたことで、晴れて1968~79年のオリコン・シングルチャート1位曲の歌無歌謡ヴァージョンが「黄昏みゅうぢっく」上でコンプリートした…と思ったら、「男の世界」がまだ来てませんでした。ありそうなんですけどね。ともあれ、84年あたりまで伸ばせそうな気はします。