黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

あなたが住んでるメンションを倒壊させるビート

東宝 AX-2013

ヒット歌謡で踊ろう! エキサイティング・ドラム・ゴー・ゴー

発売: 1973年7月

ジャケット

A1 森を駆ける恋人たち (麻丘めぐみ) 🅷

A2 妖精の詩 (アグネス・チャン) 🅸

A3 若葉のささやき (天地真理) 🅹

A4 狙いうち (山本リンダ) 🅶

A5 ふたりの日曜日 (天地真理) 🅸

A6 恋にゆれて (小柳ルミ子) 🅹

B1 危険なふたり (沢田研二) 🅺

B2 恋の十字路 (欧陽菲菲) 🅷

B3 愛への出発 (郷ひろみ) 🅸

B4 学生街の喫茶店 (ガロ) 🅸

B5 オレンジの雨 (野口五郎) 🅴

B6 傷つく世代 (南沙織) 🅺

 

演奏: 岡山和義/ミラクル・サウンズ・オーケストラ

編曲: 福井利雄

定価: 1,500円

 

今回の復活月間も当然、ミラクル・サウンズは健在です…が、この作品にいつものミラクル・サウンズ節を期待すると火傷どころか、相当の身体的ダメージがやってきます。とにかく、まず「森を駆ける恋人たち」に針を落としましょう。どんなときめきが待ち受けているかな…

なんだこれ!いきなりのスネア4発乱れ打ちに導かれ、あのイントロが大爆走モードにスピードアップ!ロックンロールを通り越して、最早スラッシュ・メタル並みの疾走度。隙間にドラムが大爆裂し、アドレナリンラッシュ爆発状態に導く。「さわやかなヒット・メロディー」収録のこの曲に続けて聴くと、まじで心臓が壊れそう。本当に東宝レコードの盤なのかと、思わずレーベルを二度見。ミラクル・サウンズのイメージが崩れ去る。

74年以降のミラクル盤でも、岡山和義(今期になって初めて、この人の名前にあれっな印象を抱く人も出てくると思われます…が、実在の人物ですよ!当然誤植ではありません…汗)の炸裂ドラミングが色を添えることになりますが、それらとここで聴ける音は一線を画している。ゴーゴーを踊らせること(73年なのに!それでも、まだディスコ・ブームは遠い先のことだし、その言葉を使うしかなかったんでしょう)を前提として、ビートを強調したサウンドをドラムを軸にして演出したものの、それが極端な形で現れている。果たして福井利雄と言う人は何人いたのだろうか…(福山峯夫に対しても、同じような表現を使ったばかりですよね)。

「妖精の詩」も、普通にポップな感じで始まり、フルートがキュートな色を添えてみせるけれど、間奏でいきなりそのフルートにディストーションがかかる!これだけでも相当の異次元モード。そしてドラムソロへ。「若葉のささやき」もお洒落な感じからいきなりグルーヴィな8ビートに変貌するし、狙いうちは謎のサイケデリックなイントロを付加して、普通じゃないムードに誘う。と思えば「恋にゆれて」はまったりとしたノリにファズ・ギターが絡んで妙な感触。筒美作品が大多数のB面もこんな感じで、特にエフェクターを多用した空間処理が危険な世界に導くけれど、その極致が「傷つく世代」だろう。「森を駆ける恋人たち」ほどテンポ的にぶっ壊していないものの、このサックスの極端な音色破壊は正に、これ以上の幕引きはないだろうと思わせる世紀末モードに導いてくれる。

モーグという最終兵器が東宝のスタジオに渡来する前に、どこまでサウンドを狂わせられるかという限界に挑んだようなエクストリームな1枚。これで踊れたら大したものだ。