黄昏みゅうぢっく〜歌のない歌謡曲に愛をこめて〜

昭和40年代の日本大衆文化の重要構成要素、「歌のない歌謡曲」のレコードについて考察します。

パヤパヤで彩られる早すぎたシン・なんとか

ポリドール MR-3085

新・歌のない歌謡曲 黒ネコのタンゴ

発売: 1970年1月

ジャケット

A1 人形の家 (弘田三枝子)☆ 🅼

A2 愛の化石 (浅丘ルリ子)☆ 🅵

A3 恋泥棒 (奥村チヨ) 🅻

A4 あなたの心に (中山千夏) 🅺

A5 いいじゃないの幸せならば (佐良直美)☆ 🅼

A6 青空のゆくえ (伊東ゆかり) 🅱

A7 夜と朝のあいだに (ピーター)☆ 🅷

B1 黒ネコのタンゴ (皆川おさむ) 🅶

B2 悲しみは駆け足でやってくる (アン真理子)☆ 🅿︎

B3 枯葉の街 (由紀さおり)☆ 🅱

B4 海辺の石段 (ジャッキー吉川とブルー・コメッツ) 🅲

B5 朝陽のまえに (はしだのりひことシューベルツ) 🅲

B6 星空のロマンス (ピンキーとキラーズ) 🅷

B7 私が死んでも (カルメン・マキ)☆

 

演奏: ニュー・サウンド・オーケストラ

編曲: 川上義彦、早川博二(☆)

定価: 1,700円

 

このジャケットの絵、絶対著名なイラストレーターの画だと思うんですけど、クレジットも署名もないし…誰かヒントお願いしますね。いかにも万博イヤーという雰囲気で、ミノルフォンの小梅ちゃんシリーズとも違う魅力が出てるし、演奏者クレジットもポリドールでは見かけない感じで、相当な冒険盤の予感が漂ってきます。この時期のポリドールの歌謡レコードを聴くと、確かに独特のタッチがあって、特に何曲かでは最新型エレクトーンに搭載されたリボンコントローラーによるポルタメント効果がうまく使われてたりするし(秋美子「哀愁の花」とか。名曲すぎです)。さすがに、この盤にはそれを使用した曲はなかったが、ほぼ全曲に意表をついたアレンジが採用され、他では聴けないぞというオーラを表面に漂わせている。

手堅いなと思わせる「人形の家」にいつの間にか忍び寄るドラマティックな女性スキャットスキャットとまではいかない、最小限のシラブルを声に出しているのみなのだが、途轍もない抱擁力を発揮している。これでクレジットがないとはねぇ。絶対有名な人だと思うのだけど。対して、相当冒険的なアレンジをしている「愛の化石」には、ライトな感触を足している感じだ。2コーラスのBメロの最後に入れる「ふーっ」が何ともお茶目なのだけど、それだって職人芸。「恋泥棒」は相当のレア・グルーヴ・モードで聴かせ、所々に「雨」を連想させるフレーズ入り。そして、パヤパヤ歌唱に心を奪われる。「あなたの心に」も相当の再構築ぶりだ。この調子で、パヤパヤを軸に駆け抜けていくが、「夜と朝のあいだに」で聴けるサイケなギターとか、「悲しみは駆け足でやってくる」に「フォー・ユア・ラヴ」感を注入するパーカッションとか、歌無歌謡ではあまり体験できないサウンドも随所に。妙な楽器を使うことなく、音の調合加減で異色の世界を演出することも可能と教えてくれる名演が続出する。

ところで「海辺の石段」でやっとパヤパヤが出てこない展開に至るのだけど、これが何と、既に手に入れていたものの、この曲の収録箇所に傷がついてしまったせいでべっとりシールが貼られ再生不能になってしまい、泣く泣くここで語ることを諦めたアルバム『秋本薫のテナー・サックス 涙でいいの』の収録ヴァージョンを流用したものだった。苦心して同アルバムの再生可能な箇所に針を落とし、聴き比べた結果判明したもので、そんなこともあるんだと救われた気分。しかし、「懐かしの人」と「バラ色の月」は依然再生不能なので、ここに復活することはまだまだなさそう。他にも3曲が同じアレンジャーによる編曲で、同アルバムと重なっているが、これらはパヤパヤ入りで全然違うテイクになっている。何ゆえに「海辺の石段」だけそうしなかったのだろう?シンガーに抵抗でもされたのかな(爆)。最終曲「私が死んでも」は、一瞬「私が死んだら」と混同しそうだが、ユニークなアレンジで締めくくっている。最後の最後で炸裂するスキャットガールぶり。ほんと誰なんだこの人…

 

update: 「マンダム〜男の世界」の歌無版、何気なく買った通販盤バラ売りの1枚の中に入っていました。ここでは取り上げませんが、無事79年までのオリコン1位曲歌無版をコンプリートしたことを報告いたします。80年代からは茨の道ですね。特に87年はほぼ総倒れ…いっそおニャン子インスト集とか作りたいですね、もちろんリコーダーをフィーチャーして(瀧汗